医師の地域偏在は対策が取られてきたにもかかわらず、成果が限られ、依然として大きな問題となっています。厚生労働省は状況改善のため、医師不足の地域で働く医師に対して、キャリア認定制度を設ける方針を固めました。
厚生労働省は2015年12月から医師需給分科会を開催し、医師の地方偏在など課題解決に向けて討議をしています。2017年11月8日に開かれた15回目の会議資料を見ると外来患者のうち約6割は無床診療所を受診していますが、無床診療所は都市部に偏在し専門分化が進行していることが指摘されています。
人口10万人当たりの無床診療所数が多い地域は、東京23区中央部が248.8カ所、大阪市が123.1カ所、東京23区西南部が119.1カ所などとなっています。一方、無床診療所数が少ない地域は、北海道根室が26.5カ所、北海道遠紋が32.9カ所、福島県相双が35.2カ所などで、少ない地域と多い地域では最大9倍の格差があります。
診療科については、主たる診療科が「内科」や「外科」という医師の数は増えず、「消化器内科」や「循環器内科」、「泌尿器科」や「脳神経外科」が増加しています。
無床診療所は地域医療の窓口であり、病院などとの連携によって地域を支えています。しかし現状では救急医療やグループ医療や高度な医療設備・機器の共同利用などが、個々の医療機関に委ねられ効率的な連携がなされていないことが課題です。
地方に無床診療所が増えにくい理由としては病院や医療機関の管理基準が厳しいため、医師が複数の施設の管理責任者を兼務することができないことが挙げられます。加えて、自由診療や自由標榜が医師の地域偏在や診療科の偏りを生んでいるのではないかとの指摘があります。
医師の都市部集中傾向とは裏腹に厚生労働省が2017年4月6日に公表した「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」の結果によると、地方で勤務する意向がある医師は44%存在し中でも20代の医師は60%で最多となっています。
現在医学部には地元枠が設けられ、地元出身の医学生を一定数受け入れています。そうした地元出身の医学生は、卒業後も地域に残る割合が78%と高くなっています。つまり環境が整えば、地方勤務あるいは地方で開業する医師は増える可能性があります。
医師需給分科会では、取り得る対策として次のような意見が出されています。
などです。
このうち、地方勤務を選択した医師へのインセンティブについては地方に貢献する「認定医師」としてキャリアを認め、その事実を名刺に入れたり広告したりできるようにする策や、全国に約500ある地域医療支援病院など一定の病院の管理者として認定医師を評価することなどが挙がっています。
検討会の出席者からは、キャリアとして認定するインセンティブか、強制力を持った法規制かの両論が出されています。法規制を主張する人は、医師偏在を解消するための対策はこれまでも取られてきたが効果は限定的であり、解消には法改正など強制力が必要ではないかといいます。
インセンティブ主張者は、法や制度で無理やり地方に押し込めても、医師も患者も不幸になるだけであくまでも医師の自由意志を尊重し、地方勤務を率先して行いたくなるような措置が大切としています。
いずれにしても、厚生労働省はキャリア認定制度をてこに、地方で勤務する意向のある医師を支援したい考えです。
地方勤務の意向のある医師は20代の60%が最多ですが、2年から4年の短期間を希望する人が多くなっています。一方40代の医師で地方勤務の意向を持つ人は48%ながら、6割の人が10年以上の期間を希望しており、地方に長く定着する可能性があります。
法規制かインセンティブかの議論はありますが、地方勤務の意向を持つ、あらゆる年代の医師のキャリア形成を支援するものになることが望まれます。
医師の地方偏在、専門分化が進むものの、20代から60代まで幅広い年代の医師に地方勤務の意向があります。こうした需要を見極め、あらゆる年代の医師が柔軟にキャリアを形成できる制度が期待されます。