医師は平均すると生涯に3回から4回転職するといわれます。では、どのようなタイミングで転職を決断し、どのような職場を探すのがよいのでしょうか?適切な判断をするには、まずは医師の転職市場の現状を知り、しっかりと対策を立てることが大切です。
日本は医師不足といわれ、OECDによる2015年の統計によると、人口1000人あたりの医師数は2.3人で加盟国35カ国中32番目に甘んじています。人数としては、1位のオーストリアの5.0人と比べ2.2人、OECD平均の2.8人に比べると0.5人少なく、世界的にみて医師の数が少ないといえます。
ある転職サイトの調査によると、医師の転職市場規模は2014年度で約154億円で、市場は年々活性化しているといわれます。2014年度の日本の医師数は約31万人で、そのうち、10から15パーセントの医師が転職していると推計されています。
転職市場が活性化している理由は、
女医のライフイベントである結婚や出産・子育てを機に転職をする人が増えていること
平均寿命や健康寿命の伸び定年退職した医師が再就職先を探すケースが増えてきたこと
ワークライフバランスを重視する流れ長時間労働や過労死の問題で仕事・生活スタイルを見直す人が増加し、多様な働き方や自分らしい働き方へ社会がシフトしていること
などが挙げられます。
これまで医師の転職といえば、大学や医局に依頼して次の職場を紹介してもらうという方法が一般的でした。それ以外としては、知り合いなど個人的なネットワークを頼る、あるいは関連病院からの紹介、インターネットの求人を自分で探して応募するなど、方法は限られていました。
これは、医師の世界が出身大学や教授など、縦のつながりが強いことがその主な理由です。しかし近年こうしたつながりが以前ほど強くなくなり、民間の職業紹介事業者、いわゆる転職サイトが存在感を増してきているのです。
退職するには、医局のトップである教授に直接その意思を伝える必要があり、言い出しにくい場合が多くあります。さらに、医局としては局員の数が多いほどよいこともあり、退職の意思表示をした途端、強力な引き止めにあい、なかなか辞めさせてくれないという話もよく耳にします。
退職がこじれ、教授から睨まれてしまうと、転職先に圧力をかけられたりすることもあります。そこまでの行為がなくても、転職後に学会などで教授と顔を合わせて気まずい思いをしたり、その後のキャリアに影響が出たりすることは十分に考えられます。
転職サイトは、キャリアコンサルティングや希望の求人の紹介をはじめ、スムーズな退職方法についてもアドバイスをしてくれることもあり利用が伸びているのです。
医師不足で求人が増えているとはいえ、地域や診療科によってばらつきがあります。
たとえば東京都は、都道府県別の人口10万対医師数が多い地域で、人口10万人あたり324人の医師がいますが、埼玉県は167人と、2倍近い開きがあります。つまり、埼玉県の方が東京都よりも医師の需要が多く、売り手市場であるため、条件のよい求人に巡り会える可能性が高いといえます。
さらに、求人が多いのは一般内科、循環器内科、消化器内科など内科系で、皮膚科や耳鼻科、眼科は少ない傾向がはっきりしています。
その一方で、リハビリテーション科やアレルギー科、救急科などは近年需要が高く、今後も医師不足が続き豊富な求人が望めると予測されています。医師の求人は1年を通して豊富ですが、それでもボーナス支給後の7月から増え始め、10月から12月に最盛期を迎えます。この時期に照準を合わせれば、希望の求人を見つけやすくなります。
このような求人の傾向や待遇は、日常業務をこなしながら個人で情報を集めて比較するのは大変です。
やはり転職サイトを上手に使い、最新の転職市場の動向を把握しながら、自分の希望に沿った転職先を余裕を持って探すことが大切です。
ただし、転職サイトのなかには、架空の求人を掲載して集客したり、自社に有利な求人を強引に押し付けたりする悪質なところもあります。さらに、サイトによって弱みや強みがあるほか、コンサルタントとの相性も大切ですので、複数の転職サイトを比較して、自分に合ったところを慎重に選びましょう。
日本は世界的に見ても医師不足で、転職市場も活性化しています。転職ルートも医局経由中心だったものが、民間の転職サイトの利用へとシフトしています。
求人数や待遇には地域や診療科によるばらつきがあるため、自分に合った転職サイトを上手に選び有利な地域や診療科を研究するなど、しっかりと戦略を立てて挑むことが大切です。