現代には治す薬は存在しないとまで言われる動脈硬化、その最たる治療法として挙げられるのが「食事」だと言う話は、恐らく皆さまもご存じではないでしょうか。動脈硬化に至る要因としては生活習慣が挙げられますが、研究の結果、実は非常に気になる話があがってきているのです。
それが、歯周病菌が動脈硬化に関わっているという話です。口腔内の話がどうして動脈硬化に関わるのか、その疑問については興味がなければ恐らく全くピンと来ないのではないでしょうか。そこで、今回はどうして動脈硬化に歯周病菌が関わっているのか、研究の結果どのような事実が判明しているのか、その点を中心に少しお話をしていきたいと思います。
失った歯の数と、動脈硬化との間に関連性があるかを実験した結果により、その因果関係が一部証明されていることはご存じでしょうか。これは、滋賀県長浜市における10000人を対象にしたコホート研究の一環で数年に渡り続けられてきたものですが、この調査では歯周病等により歯を失った本数と、動脈硬化度には有意の関連性がみられたとのことです。
また、アテローム性動脈硬化の病巣から歯周病菌が検出されていると多数の報告があげられています。検出されている菌の種類に関しては、少なくとも5種類が既に発見されているのですが、まだそこに至った経路に関しては完全に解明されていないようです。現在は、歯周病菌が歯肉から血管内に入り込み、炎症性物質を産生することによって動脈硬化を進行させているのではないかとも考えられています。
歯周ポケットが深くなればなるほど、血管内部に侵入可能な歯周病菌が増加するという報告も上がっており、口腔内の状態(特に歯周病)と動脈硬化との関連性に関しては、今後の更なる研究成果が期待されるところです。
歯周病菌が血管内に入り込むプロセスに関しては、一般的な見解に関しては先ほど述べた通り、歯肉から伝わり、全身の血流に乗るように、様々な部位へと歯周病菌が運ばれているものと、現状は考えられています。しかし、現在考えられている経路はそれだけではありません。
例えば、大腸がんに歯周病菌が関与しているという報告も上がっています。これは、癌の病巣から歯周病菌の1種が検出されたことに由来するところもありますが、実は大腸がん患者の約4割程度において、がん患部及び唾液中に共通の菌株が発見されているのです。
また、歯周病菌がヒトの腸内フローラに影響を与えている、とする研究成果も上がっています。これは、口腔内に存在するはずの歯周病菌が、何らかのルートを経て、腸内にまで達し、増殖することが可能であることを示していると言えます。
腸と言えば、近年"リーキーガット症候群"と呼ばれる病態について取り上げられる機会が増えてまいりました。認知症治療の第一線で活躍するプレゼデン博士もそのリコード法の中で、万病の元となるリーキーガット症候群の治療に関する重要性を説いている所です。
リーキーガット症候群とは、様々な物質が原因となる腸管上皮細胞のタイトジャンクション機能が破綻する症状を指します。通常、500Da以上の物質は腸壁から内部へ入りこむことができないのですが、グリアジンを始めとする様々な物質に暴露されることにより、未消化の食物や細菌、真菌、化学物質や重金属などが血流へと入りこむことが明らかとなっています。
歯周病菌とリーキーガット症候群との間にはまだ因果関係が証明されてはいませんが、もしかすると今後は何らかの関係性が見出されるかもしれません。
歯周病に関しては、動脈硬化のみならず虚血性心疾患などへの関与も疑われている所でありますが、口腔内における異常が全身の疾患リスクを高めるとする別の報告もあがっており、原因究明に向け様々な研究が今も続けられています。今後、どのような成果が出るかはわかりませんが、知識としては頭の片隅に入れておきたい所です。
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ZY 検査技師として医療機関に勤務。代替医療、食事療法を中心に学んだ経験を活かし、健康をテーマにした内容を広めるべく様々な活動を行っています。食、医療に関しての関心が強く、ライターとして活躍させて頂いております。 |