医師の睡眠不足は深刻な問題となっています。睡眠不足により健康状態にも影響が生じ、さらに脳の働きも鈍くなるなど良いことはなく、医師が自分と患者を守るためにも睡眠時間の確保は必須となります。
今回は医師の睡眠時間と健康状態についてご説明していきます。
急性期病院や大規模な総合病院に勤務している場合、当直による業務が負担となります。医師が睡眠不足に陥るケースとして最も多いのは、当直によるものといっても過言ではありません。当直では夜間に必要があれば、急患や病棟の患者の対応に当たることになります。
しかし、救急車の音や物音で目が覚めるなど、熟睡できずに疲れがたまります。急患が多い日にはほとんど休むことのないまま翌日の勤務を迎える場合もあり、当直業務の忙しさはその病院の特色やタイミングによって異なります。
中には当直明けに続けて勤務し、日中に通常の業務をこなす医師もいます。そうすると連続して30時間以上勤務することもあり、このような生活を続けていれば当然のことながら健康にも影響が及びます。
一般的なサラリーマンは8時間〜10時間程度の労働をすることから考えても、いかに長時間働き通しかということがわかります。また、病院によっては院外にいてもPHS・携帯電話で連絡がくることもあり、気持ちが休まらないというケースもあります。
夜間もいつ呼び出しがくるかわからないため、眠りが浅くなるという医師もいます。ケース・バイ・ケースではありますが、さまざまなフィールドで医師の睡眠不足が問題となっています。
滋賀医科大学附属病院で行われた調査では、睡眠時間が6時間を下回ると疲れを持ち越す人の割合が増え、疲労が回復しにくいと結論づけています。また、過去の報告では、睡眠時間が6時間を切ると心疾患のリスクが高まるともいわれています。
このような報告は他にも散見され、ハーバード大学の研究によると、睡眠時間が短くなって5時間を下回るようになると、8時間以上寝ている人と比べて心疾患にかかるリスクが1.45倍になることが示されました。疲労を回復するためには睡眠が不可欠であり、睡眠が減ってしまうと体に大きな負担がかかっていることがわかります。
仕事で睡眠時間が短くなっていると感じる医師は、1時間でも多く睡眠をとることができるよう、業務や生活パターンを工夫していく必要があるといえます。医師は人の健康を守る立場にあることから、まずは自分の健康をしっかりマネジメントしていくことが必須となります。
睡眠不足が影響を及ぼす範囲は、体の健康だけではありません。
睡眠不足によって脳が十分に働かなくなり、不注意に起因するミスをするようになるなどの影響が出てきます。寝不足になると頭が働かないという経験をお持ちの方もいると思いますが、大丈夫だと思っていても思わぬ医療ミスにつながることもあるため、注意が必要です。
また、睡眠不足はメンタルヘルスにも大きな影響を与えることがわかっています。国立精神・神経医療研究センターの研究グループによる2013年の報告では、たった5日間の睡眠不足によって情動に関わり、"ネガティブな刺激"に対する扁桃体の反応が亢進することを明らかにしました。
逆に、幸せな表情など"ポジティブな刺激"に対する活動は変化しなかったのです。睡眠不足によって、ネガティブな情動が引き起こされるようになることから、うつ病や不安に陥るリスクが高まってしまいます。睡眠不足がメンタルヘルスに与える影響はなんとなく実感できることも多いですが、実際に科学的な見地からも明らかとされているのです。
医師は過酷な業務形態から、慢性的に睡眠不足になる人が多いです。最低限の対応として、脳を休めるために15〜20分で良いので空き時間に仮眠をとるようにしましょう。
ここで重要なことは横になってアイマスク等で光を遮り質の高い睡眠をとることであり、問題解決能力や思考力の回復が期待できます。