病院勤務医の労働時間は、実態調査に基づき2011年に報告された数字では1週間平均61時間から66時間です。
また、4人に1人が月に4回以上の宿日直を行い、さらに当直明けも連続して通常の勤務を行っています。
そのため、睡眠時間が短くて不規則になっている医師が多くいることがうかがえます。そこで、体にかかる負担を減らして効率よく睡眠時間を減らせる方法について紹介します。
人の睡眠時間は調査によると3、4時間で済む人から10時間まで必要とする人まで非常に大きな個体差があり、これは他の動物には見られない大きな特徴です。
この大きな差は、主に「体質で決定される必要睡眠量」「睡眠をどのように取れるかの生活習慣」「睡眠不足に耐える力」の3つの違いに、「睡眠の質」「季節」「年齢」などの影響が加わっていると考えられています。
このうち、最低限必要な睡眠時間は2時間程度の個体差しかないことが最近になって明らかになっています。
この体質で決定される必要睡眠時間を取らないと、倦怠感、眠気による効率・能率の低下、正常な状態であれば起こさない判断ミス、行動のミスを招きやすくなります。
長期間続けば、生活習慣病やうつ病、認知症などのさまざまな疾病のリスクを高めます。この必要睡眠時間がわかると睡眠の管理がしやすいですが、多くの人を日常生活から切り離して同じ生活環境で測定することは難しいため、測定できてません。
なお、日本人11万人を対象とした疫学調査の結果で、7時間睡眠した人の死亡率がもっとも低かったことから、多くの人は6時間から8時間が必要睡眠量と推測しても問題ないと考えられます。
また、同様の調査はアメリカでも約110万人を対象に行われ、死亡率の低い睡眠時間は同じ6.5~7.5時間です。
さらに、別のアメリカの調査では4.5時間以上の睡眠時間を取れば死亡率は大きく上昇しないことが分かっています。そのため削れない睡眠時間は4.5時間と考えられます。
個々人に必要とされる睡眠時間が1日のなかで取れれば良いですが、足りない感覚があれば対策として"効率よく質の高い睡眠"をとって寝覚めの良い睡眠をする必要があります。
寝覚めの悪い起床は、強い眠気で頭がぼんやりしてテキパキとした行動ができない「睡眠慣性または睡眠酩酊」状態になります。
この状態では、思考はあいまい、行動は反応スピード・正確性が悪化し、医師にとって重要な判断ミス・手技ミスを犯しかねない危険性が生じるので絶対に避けなければなりません。
質の高い睡眠で寝覚めの良い睡眠をするには、成長ホルモンとメラトニンが分泌される時間帯に眠り、コルチゾールの分泌がピークに達する時刻に起床することです。
深い眠りができるホルモンの分泌時間から0時から6時に眠り、90分サイクルに現れるコルチゾールの分泌が増えるレム睡眠時に起きると良いことになります。
就寝して入眠する時間を予測して、その時刻から起きねばならない時間によって90分の倍数で起きるようにすると、目覚めのよい起床ができます。
忙しくて上述した方法による睡眠ができない場合もあります。
そのときには、適切な短時間の仮眠を取ることでカバーできます。休憩時間に適切な仮眠を取ることで、眠気、疲労、および作業意欲がほとんど落ちないことが実験で確かめられています。
仮眠は長すぎると上述したように眠りが深くなり「睡眠慣性または睡眠酩酊」状態となってよくありません。
30分以上眠ると眠りが深くなるので、20分程度が仮眠にはもっとも適しています。横にならず椅子に座った姿勢が眠りが深くならず仮眠には良い姿勢です。20分も取れない場合は、10分でも同じような効果が得られることが分かっています。
多忙で睡眠時間が十分に取れない、あるいは就寝時間も不規則で良い眠りができないという場合に、効率的な睡眠を行い疲労や集中力を防止できる睡眠方法を紹介しました。
医師は患者の命を守るために常に正しい判断、正しい手技を求められます。参考にしていただき睡眠不足が起こす重大なヒューマンエラーを避けるようにしてください。