半世紀の時を経て東武鬼怒川線にこの夏SL「大樹」が復活します。「ぽっぽ汽車」と親しまれた昭和の機関車が平成の地域復興の救世主となるか、期待が膨らみます。
SLには過酷な条件の鬼怒川線での運行。たずさわる人々の熱意と努力なしでは達成できない壮大な復活プロジェクトが背景にはありました。
東北復興の使命と様々な人々の希望を乗せたSL「大樹」誕生ストーリーを伝えます。
日光・鬼怒川の観光エリアの沿線を担う東武鉄道は自社ならではの地元活性策を模索していました。その際、機関車の方向転換をする転車台の溝が残っていることがわかります。 遺構の保管活用が集客力となり地域に貢献できるのではないか、この「鉄道文化遺産の活用」の発想がSL「大樹」復活へのきっかけになります。
検討を重ねるうちに地元貢献への挑戦意欲はさらに高まり、範囲は東北復興へと発展します。その目的を達成するために挙がったのが「SL復活」案です。
東武鉄道にとって課題多き初の試みでしたが、復興支援への熱意がSL「大樹」を誕生させるのです。
あるのは転車台の溝のみ、かつてSLに携わっていた人員もいない、ゼロからのスタートと言ってもよいSL「大樹」復活プロジェクトを達成するため東武鉄道は他の鉄道関連会社に協力支援を依頼します。 会社の垣根を越えて各鉄道会社がSL復活に向けて心ひとつに手を取り合う過程を、かかわった方たちの声を交えながら紹介します。
旧客車を譲渡したのはJR四国でした。40年以上経過した客車の復旧作業は難航しましたが、双方の従業員たちが協力し合い成し遂げます。 「寂しい複雑な気持ちで見送った」が「運行を開始する際には是非とも乗車したい」とSL「大樹」へエールを送ります。転車台を譲渡したJR西日本は、自社の転車台が再び活躍の場を得ることに「歓喜で胸が一杯になった」とその思いを伝えます。
2名の社員の機関士訓練はJR北海道が担当。過酷な暑さの運転室で行われる投炭訓練は体力的に非常に厳しく、果たして耐えられるのかと心配したそうです。予想に反し高いハードルをクリアしていく彼らを見届け「「栃木・福島エリアの支援活性化」に対する強い想いのお役に立てる事ができ、心からうれしく思っています」と語ります。
秩父鉄道・大井川鐵道株式会社・真岡鐵道株式会社は資格取得の指導に協力。SL機関士2名が誕生します。「10か月間、機関士の2名が厳しい訓練に耐え、甲種蒸気機関車運転免許を取得できたことは、SL復活にかける情熱と努力の結晶」とその熱意を讃えます。
「近代化産業遺産」を保存するだけではなく現代の地域活性化の担い手として活用することに意義があると東武鉄道は語ります。
その理念のもと、全国各地の鉄道事業者の協力で現代に蘇ったSL「大樹」は昔ながらの技術とノウハウを継承しつつ地域の人々とともに地元と東北復興の「未来創造」へと動き出します。
なお、SL「大樹」は2017年8月10日に運行スタートし、東武鬼怒川線の下今市から鬼怒川温泉間を約35分間走行します。 発着のメイン駅となる下今市駅のリニューアルも予定されています。SLを間近に見られるよう工夫されており、旧SL走行時代の昭和をほうふつとさせる設計になっています。
SL「大樹」には地元の魅力を多くの人たちに知ってもらいたい願いと期待が込められています。
地域貢献への熱意から現代に蘇ったSL「大樹」。かつて日本の鉄道をけん引した蒸気機関車は今の私たちにも新たな活力を与えてくれることでしょう。
蒸気を上げ走るSL「大樹」の魅力をぜひ体感してみてはいかがでしょうか。