医師が作家に転身したり、仕事の合間に執筆をしたりしている医師も多いようです。医師は職業柄、様々な場面に遭遇します。死と生、悲しみと喜び、世の中の矛盾など、自身の経験を通して話のネタを得ることができるから、という意見もあります。
実際に医師としても作家としても活動していた「医師作家」について何人かご紹介します。
森鴎外(1862~1922)は、医師作家として有名です。本名は森林太郎。東京大学医学部卒業後、陸軍軍医になり陸軍省派遣留学生としてドイツで4年医学について学び、帰国後は陸軍軍医トップの陸軍省医務局長にまで上りつめました。
ドイツで学んだ衛生学を生かし、伝染病が蔓延していた都市に下水道を普及させること、貧困層の居住地区の生活環境の改善を提案しています。その傍ら、執筆活動を行なっています。
ドイツを舞台にした小説「舞姫」や江戸時代を舞台にした歴史小説「高瀬舟」など、有名な作品をたくさん残しています。
「どくとるマンボウ航海記」という本で有名な北杜夫(1927~2011)は、精神科医でもありました。
少年時代は、昆虫採集に熱中しファーブルのような昆虫学者を目指した時期もあったようですが、医師であった父親の一方的な厳命で医師としての道を歩み出します。その後、精神科医として勤めながら、様々な作品を生み出しています。
彼の作品には、自身の経験がよく現れています。自然や昆虫の綿密な描写は、少年時代に夢中になっていた昆虫採集の経験がよく現れていますし、「どくとるマンボウ航海記」も、本人が漁業調査船に船医として乗り込んだ体験を元に書かれた作品です。
永井明(1947~2004)は、東京医科大学卒業後、神奈川県立病院医長を経て、1982年に専業の医師を辞め医療ジャーナリスト、作家として活動しました。
彼の作品「ぼくが医者をやめた理由」シリーズ、原案を手がけた医療漫画「医龍」は、テレビドラマ化されています。医者としての経験が作品に現れており、医療の現場を舞台にした内容や実体験に基づくエピソードを書いたエッセイが多くあります。医療に携わる方なら共感できる部分も多いかもしれません。
他にも医師作家は多く存在しています。医師ならではの独特の視点で書かれた作品が多く、命と死、人生について考えさせられるシュールな内容や、体験談をユーモラスに書いたエッセイなど、内容は多岐にわたります。
医療に携わっている方ならではの観点で作品を楽しめるかもしれません。次の休暇に医師作家の作品を読んでみてはいかがでしょうか?