整形外科などの診療科に勤務する医師は、交通事故の被害に遭った患者を診察する機会もあるでしょう。重傷の患者もいれば、念のため受診したという程度の患者まで様々な人がいます。患者の中には事故に遭ったことを「お金にしよう」と考える人がいることは実感できる方もいるのではないでしょうか 。
交通事故に遭った人が大きな後遺症が残ることもなく軽傷で済んだとなれば、それに越したことはありません。しかし、被害者の中には明らかに軽傷であるにもかかわらず、繰り返し通院にくることがあります。通常、交通事故で車同士が僅かにかすった程度では、念のため診察に来て異常がないことを確かめたら終わりというケースも少なくありません。そうした場合には「軽傷で済んでよかった」と普段の生活に戻ることが多いでしょう。 ところが、交通事故の保険金がおりる条件として「通院5日以上」などの制限があるケースもあり、お金目当てに繰り返し通院する人が存在することも実情です。保険金は医療費に当てられるだけなので自分のお金にはなりませんが、休業保障としてもらえるお金を目当てに通院している患者もいます。休業保障では、事故によって仕事を休業することを余儀なくされたケースで認められますが、医師の判断によるところが大きく、責任がのしかかることもあるのではないでしょうか。その他にも、通院や入院が必要になった場合は被害者の肉体的・精神的負担に対して慰謝料を支払わなければならないケースもあり、こうしたお金目当ての人間がいることも事実なのです。
交通事故に遭ったあと、どう見ても元気そうな患者でも頻繁に病院へ通ってくることがあります。医師から見ても明らかに保険金や慰謝料、休業補償目当てと感じても、患者が「痛い」と訴えれば対応せざるを得ないことが実情です。疼痛などは主観的な訴えに基づいて判断することになるため、「痛い」という訴えがあれば対応することはやむを得ないことでしょう。中には外見的には軽傷に見えても本当に痛みがある患者もいるので、根拠なく治療を拒むことはできません。ただ、時にはどう考えても患者の訴えが虚偽であると感じられ、患者の訴えに対し湿布薬やコルセットを処方するなどすることにもどかしさを感じる医師もいるのではないでしょうか。
「当たり屋」という言葉はよく知られていますが、実際のところ故意に事故被害者になることで保険金を受け取っている人は少なくないようです。当たり屋の場合は、事故にあってその場で示談したり、保険金を請求することに慣れています。悪質な人は脅しまがいのことをしてくる人もいることでしょう。 当たり屋とはいっても故意に当たったかどうかははっきりと証明することが難しいです。最終的には医師が体の状態を診て、診断書を発行することになりますが、このときに記載する内容によってはただの物損事故から人身事故に切り替わります。 当たり屋と思われる被害者が明らかに元気でも、医師が用意した診断書の内容によっては加害者となっている人が免停・罰金となるケースも存在します。それほどまでに医師の判断が与える影響は大きいのです。実際に医療現場では「患者の訴えが本当かウソか」までは介入することが難しいですが、少なくとも診断書に記載する内容次第では、見えないところで別の被害受ける人がいる可能性については念頭に置いておきましょう。
交通事故患者が病院を受診する際、中には保険金や休業補償を搾取しようと企む人もいます。明らかな詐欺である場合には保険会社が提訴するケースもあるようですが、医師としては患者の主訴を無視することもできず、診療の中でもどかしさを感じることも多いのです。