日本人は仕事にエネルギーを割くウエイトが大きく、残業も当たり前という文化が長く根付いてきました。
数ある職業の中でも医師は業務がハードになりやすい特徴がありますが、最近では「仕事とプライベートのバランスを取りたい」と思う医師が増えているようです。
従来より医師の仕事というと多忙であり、配偶者や両親の支援を得ながら仕事に打ち込むということが一般的でした。しかし、最近では臨床研修医が仕事だけでなくプライベートとのバランスを重視していることが明らかとなってきているのです。
医師会総合政策研究機構調査の報告によると、多くの臨床研修医が診療科を選択するときに「職場の雰囲気や人間関係」「休日や休暇」を重要視していることが明らかになりました。さらに女性では「結婚・子育てとの両立」も重視しており、従来の"仕事一筋"といった向き合い方が変化してきているようです。
これまでのように医師が身を粉にして働くというよりは、ワークライフバランスを重視してバランスの良い生活を送ることを望んでいる人が増えてきたといえるでしょう。社会全体としても過労死などを引き起こす可能性がある長時間労働を見直そうという動きが高まっていますが、医師の世界においても同様であるといえます。
医学部入学前から臨床研修医として働くまでの間に、医学生が希望する診療科には変化が見られることが報告されています。
臨床研修医として働き始めるまでの間に、特定の診療科は勤務先の選択肢から外されていく傾向にありました。調査は936人を対象に行い、外科・小児科・精神科では学年が上がるにつれて選択肢から除外されていくケースが多いことが明らかになりました。
医学部に入学する前には「将来は外科医になって多くの人を救う」「小児科医になって地域の医療を支える」といった夢を持っていても、ポリクリ等を通して外科・小児科・精神科などの診療科では責任が重く、仕事もハードであることを突きつけられます。それらの診療科に代わり、放射線科や麻酔科など勤務時間が比較的わかりやすく安定している診療科が人気を集めるようになっていきました。
自分のプライベートと仕事をバランスよく両立していきたいという思いがうかがえます。
医師向けサイトを運営する「MedPeer」の調査では、「再度医師になるとしたら、どの診療科を選択するか」という問いに対し、2651件の回答を得ました。
この調査では「今のままの診療科を選択」と回答した人の割合が最も多く、57.1%に達しました。内科・外科・産婦人科・小児科などのメジャーな診療科を選択する割合は13.7%でした。また、皮膚科・眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科などのマイナーな診療科を選ぶ割合は18.0%で、メジャーな科よりも若干多い結果となりました。
内科などのメジャー科と比べ、マイナー科では開業しやすいといった意見もありました。一般的に開業医の方が年収は多くなる傾向にあるため、次に診療科を選ぶとしたら開業も視野に入れたいという考えが表れています。
ただ、再度医師になるとしても「今のままの診療科」という意見が最も多かったことは、根本的にその人の価値観は変わらないことを意味しているのかもしれません。
臨床研修医の診療科選びは、これまでとは異なり仕事とプライベートのバランスを重視する傾向にあります。
外科・小児科・精神科などハードで責任が重い診療科は敬遠されがちですが、こうした診療科の医師離れを防ぐためにも労働環境の改善は必須となってくるでしょう。