医師と患者は信頼関係を築くことが大切であると、医学部に在籍している頃に何らかの形で教わったことのある方も多いのではないでしょうか。
信頼関係を築く目的で、無意識のうちに実践していることも多いかもしれません。
今回は患者から信頼される医師になるためのポイントをご紹介していきます。
患者の声に耳を傾けるいうことは、言葉で表すよりも実はずっと複雑です。問診の中では、淡々と症状や経過について尋ねていく方法をとる方もいることでしょう。
近年は多くの病院で電子カルテの導入が進み、医師がコンピュータの画面と向き合うことも増えました。診察を行っている間、問診した内容をコンピュータに入力するだけで、無意識のうちに一度も患者と目を合わせないといったことにも陥ってしまいがちです。患者としては「本当に自分のことを考えてくれているのだろうか」と不安な気持ちになります。
一方的な質問と応答ばかりだと、患者は「もっと話したいことがあった」という不完全燃焼感に駆られることがあります。現実問題として、毎日病院を訪れる多くの患者を診察する上で、常に120%の力を出し続けることは難しいかもしれません。60〜70%程度の力を持続的に発揮して、長く業務に当たる必要もあるでしょう。
ただ、「あなたの症状が良くなることを真剣に考えています」というメッセージを言葉や態度から発信していくことは大切です。スムーズに治療を進めていくためには信頼関係の構築が必須であり、ある意味では"演技力"や"表現力"も試されているのかもしれません。
患者が医師や病院を選ぶとき、また気になる症状があったときにお世話になりたいと思えるような優しい雰囲気を求めることがあります。もちろんそうした優しい雰囲気は重要ですが、優しさだけでは病気を治すことができません。雰囲気も大切ですが、困り感が強い患者ほど結果重視となるでしょう。
医師の説明が論理的でわかりやすいものであれば、「この医師はきちんと治療してくれそう」と感じます。近年は模型を使って説明する医師も増えてきましたが、実際の検査データや画像所見を患者に見せて説明すると、患者からしてもインパクトが大きくなるでしょう。患者も信頼に足る医師かどうか見極めていますが、「ヤブ医者」という言葉が存在することからもわかるように医師に対する不信感が生じるケースがあります。きちんと根拠に基づいた治療を行っていることが伝わるよう、医学的な見地からわかりやすい説明を心がけると良いでしょう。
ただし、医療に関わるリテラシー能力は個人によって差があるため、高齢者などでは自宅に帰ってから医師に言われたことを家族に説明できないこともあります。そうした理解力の違いにも配慮することで、信頼をつかみ取ることへつながるでしょう。
家庭医と呼ばれる医師は、患者の病気だけでなく"全体"を見る意識を持っています。多くの家庭医は病気や症状だけでなく、家族構成やキーパーソンの存在、その人の生い立ちや生活歴、価値観など多様な観点から人となりを分析していることでしょう。患者の"病気"だけでなく、"全体"を見るような意識を持つことで、より深い信頼関係を築くことができるでしょう。
例えば、社交ダンスが趣味で腰痛に悩まされている高齢男性が整形外科を受診したとします。腰痛が改善し、目標としていた社交ダンスの再開が実現したとき、ともに喜びを共有できるような医療者であれば患者からの信頼を得ることができるでしょう。もちろん病気を治療するプロフェッショナルではありますが、その人の人生や暮らしに寄り添うような視点を持つことは大切です。そうした視点を持って接することで、患者の治療に対するモチベーションを上げることができる可能性があります。
医師が患者との信頼関係を築くことは治療を進めていくためにも大切なことです。
言うは易しで実際に人から信頼されるような人間になることは難しいですが、今回ご紹介したポイントを参考に日々の診療にあたってみてはいかがでしょうか。