点滴による患者さんのケアは多くの診療科で日常的に行われています。しかし、日常的に行われる分、事故の原因となることも少なくありません。
今回は点滴による事故を起こさないための3つのポイントを紹介します。
一つ目のポイントは目的を正しく理解することです。
医療の現場に限らないことですが、仕事に取り組む際には、漫然と行うのではなく、何のために行うのか、なぜそれが必要なのかを理解して行うことが大切です。
仕事においては目的を理解せずに走りだしては、いつまでもゴールにたどり着くことはできません。
特に人命を預かる医療現場では、仕事を指示する側も支持を受ける側も、認識の違いがないように目的を共有し、あいまいな点を残さないことが大事です。
医師自らが点滴の手技を行うケースのみでなく、看護師などに指示を出して対応してもらう医療機関も多いでしょう。そういった医療機関では、実際の手技を行う方は何のための点滴なのか、十分に理解されているでしょうか。
点滴が必要とされる状況は、水分補給や栄養補給、電解質バランスの補正、薬剤投与、全身管理のための血管確保など様々です。
また、指示を出す医師も人間ですし指示を受ける看護師等も人間ですので、指示のミスや伝達漏れ等はどうしても発生してしまいます。そういったヒューマンエラーを防ぐために、実際に点滴の手技を行う人が、何のために、どういった症状の患者さんに点滴を行うのかといった目的を理解していることが大切です。
二つ目のポイントは準備です。
患者さんの症状によっては十分な時間が取れないこともあるかもしれませんが、医療従事者2名以上で、ダブルチェックを行うようにしましょう。
処方箋の日付、患者名、薬剤名、数量、投与方法等を確認し、トレイに必要な物品を用意します。このとき、どういう症状の患者さんに"何のためにどういう処置を行うのか"といった目的を正しく理解していれば、患者さんの間違えや薬剤量の誤りなどの事故を未然に防ぐ効果が期待できます。
日常の薬剤準備だけでなく救急対応時にも滞りなく準備ができるよう、日ごろから点滴投与のマニュアルを用意して周知徹底することが大事です。
周知徹底させるためには、ただ単にマニュアルを配布してマニュアルどおりの行動を支持するだけは不十分です。マニュアルに記された作業工程一つ一つについて、なぜその作業工程が必要なのか、どうしてその様にしなくてはいけないのか、現場の医療スタッフが一つ一つの行動の意味を考え、理解できるように院内カンファレンスも活用しましょう。
点滴による事故を防ぐ最後のポイントは、患者さんの確認、薬剤の確認、実施部位の確認、ルート確保の確認、輸液開始後の確認の「5つの確認」です。
念入りに点滴の準備を行っても、患者さんを取り違えてしまっては意味がありません。名前の確認は全ての確認の基本となります。
患者さんとともに確認をしたり、リストバンドで確認をする等の対策をとりましょう。その上で、薬剤や実施部位をあらためて確認します。
針を刺したら、逆血があるか点滴は落ちるか、腫脹や痛みはないか、ルート確保ができたかどうか確認しましょう。点滴の開始後も、5分後、15分後に患者さんの様子を見、滴下が正しく行われているかや発汗等の異常や副作用の症状がないかを確認します。また、点滴前だけでなく点滴後の十分な確認を忘れないようにしましょう。
何事も「初心に帰る」というのは大事なことです。
点滴による患者のケアは医師一人ではできませんし、医師を含め誰もがミスを犯す可能性があります。
医師を含めた全ての医療スタッフが、指示通りに動くだけでなく、なぜそのようなケアが必要か、目的を理解し、常に考えながら行動することで医療ミスを減らすことができます。
一度、点滴の院内状況を改めて徹底してみてはいかがでしょうか。