インフルエンザワクチンやMRワクチンなど、病原体への抵抗力を付けるためのワクチンは様々あります。
しかし、製造する会社や工場が限られていたり、ある程度の製造期間が必要であるなど、ワクチンの製造には限界があります。
医療の現場でワクチン不足が起きたらどう対応すればよいのでしょうか。
この記事を執筆している2016年10月現在、関西空港やその周辺でのはしかの流行を受け、はしか予防接種の需要が高まったためにはしかワクチンが全国的に不足しています。また、2016年の春には熊本地震で工場が被災したために、A型肝炎ワクチンや狂犬病ワクチンの供給が止まりました。
日本国内でワクチンを製造できるメーカーや工場は限られている上、ワクチンには有効期限が設定されています。ワクチンメーカー側もビジネスとして製造しているために必要量からかけ離れた量の製造は行っていません。
また、MRワクチンの場合では、国家検定の期間も含めて原液の製造から出荷までには一年半から二年程度必要であるなど、ワクチンの生産量を増やそうとしてもすぐに増やせるものではありません。
そのため、はしかの流行のように病気の流行で需要が急激に増えたり、熊本震災のように供給が止まってしまうと、微妙なバランスで成り立っているワクチンの需要と供給の関係が崩れ、ワクチン不足が発生してしまいます。
ワクチンの需給のバランスはいつ崩れてもおかしくなく、いつワクチン不足が発生しても不思議ではないのです。
ワクチンの不足が発生したとき、医療の現場ではどういった行動をとることができるでしょうか。
一つは、優先順位の高い患者さんからワクチンを接種することです。基本的には、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」による優先順位に準じることになります。
しかし、外来の現場で厳密な振り分けを行うことはかなり難しいのです。ワクチン接種を断った患者さんが、発症し亡くなられたりしたら、病院が訴えられる可能性もあります。そこで、客観的に判断できる明確な基準が必要になってくるのです。
具体的には、抗体価検査を行った上でワクチンの接種を判断しましょう。もちろん、新型インフルエンザなどの未知の病原体には使えませんが、現在、不足が発生している「はしか」については抗体検査を行うことができます。
患者さんに費用の負担が発生してしまいますが、抗体検査を行った上で必要な人にだけ接種することで数少ないワクチンを有効に使うことができます。
医療現場で行えるもう一つのワクチン不足への対応は、輸入ワクチンへの対応です。ワクチンの種類によっては、国内ではワクチン不足になっていても海外では十分な供給があることもあります。
輸入ワクチンの中には日本国内で未承認のものもあり、安全性に不安があるかもしれません。しかし、重大な疾患に罹るリスクとワクチン接種によるリスクのどちらを選ぶかの選択肢は、患者さんに提示するべきではないでしょうか。
輸入ワクチンを取り扱う会社では、自社の取り扱いワクチンによる副作用へ独自の保障制度を設ける会社もありますので検討してはいかがでしょう。
また、主に海外渡航前の方を対象に輸入ワクチンを接種する病院もあります。患者さんの選択肢を広げるために、皆さんの病院内で輸入ワクチンを接種しなくても、輸入ワクチンを取り扱う病院を紹介することもできます。
ワクチン不足はいつ起きても不思議ではありませんが、一人の医師にできることには限りがあります。
一人の医師ができることとして、患者さんがワクチン接種について選択肢を持てるようにワクチン不足の際の対応をシミュレートしてはいかがでしょうか。