2016年12月22日、2017年度の政府予算案が閣議決定されました。その中で社会保障費のあり方が大きく変わろうとしています。
我が国で増大している医療費を抑制する方向で政策が進んでいこうとしています。
日本では高齢化が進んでいるということは多くの人が認識していますが、それにともなって医療費が増大していることは深刻な問題となっています。高齢化という要因のほか、新しい医療機器の開発や新薬の登場といった変化も医療費の増加に結びついています。
こうした経緯によって起こる社会保障費の自然増が、2017年度には6400億円を超えると予想されていました。膨大なコストがかかることによって医療費が財政を圧迫するようになったことを受け、2017年の政府予算案では社会保障費を抑制するための制度が盛り込まれました。国としても社会保障は優先すべきことと認識していますが、医療費を削減せざるを得ない状況になったのです。
2017年8月から、低所得層を除く70歳以上の高齢者では医療費の限度額が引き上げられることになります。一般的に医療費が高額になると、1割〜3割という自己負担であったとしても、総額でみると大きな負担になってしまいます。
医療費が多くかかる人の経済的負担を考慮し、従来より年齢・所得に応じた医療費の限度額が設定されています。年収370万円未満・住民税課税の「一般」に当たる区分では、入院の場合に1ヶ月の限度額が4万4000円でしたが、それが2017年8月より5万8000円に引き上げられます。高齢者の場合は医療機関を利用する頻度も多いため限度額に到達することも多いですが、その基準が引き上げられてしまうことで月あたりの支出が増加する世帯も多くなることが見込まれます。特に入院の頻度や期間から毎月限度額に達してしまう高齢者の場合には、年間を通して医療費にかかる費用が大きなものとなってしまうでしょう。
高齢者に対する社会保障の待遇を悪くしてしまうと、当然それだけ票離れを招いてしまうことになりかねません。医療費を削減する方向に働きかけることは政府としてもなかなか踏み込みにくい領域でしたが、医療費の増大を受けて対応せざるを得なくなったといえます。
日本の医療においては、患者が病院を自由に選んで受診することができます。そのため、軽症の患者が最先端の設備が整った大病院に入院することも少なくありません。そうしたケースでは医療を非効率的に提供することになってしまいかねず、必要以上に医療費がかかってしまうことになります。
基本的に気になる症状があったときにはまずかかりつけ医を受診し、必要があれば大きな病院を紹介するという機能の分化を図ることは、医療費の抑制を考える上で重要なポイントとなるでしょう。海外ではかかりつけ医の位置付けに関しては既にそのようなスタイルが浸透しています。
今回の予算案に組み込まれた、"医療費に関わる限度額の増加"はある程度即効性のある方法といえるでしょう。しかし、医療費の抑制を考えるとき、限度額の引き上げという個人への経済的負担を強いてしまうような方法の他にも、医療全体の枠組みや構造から改善できる点があれば積極的に変えていくことが望ましいです。
2017年8月より医療費の限度額が変わり、高齢者を始め治療を受ける頻度が多い人では負担も大きくなることが見込まれます。
かかりつけ医という位置付けの強化を始め、医療費を抑えるためにできる取り組みは多角的に行っていく必要があるでしょう。
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医療をとりまく環境は刻々と変化しています。従来と同じやり方ではなく、時代にあわせた医療改革が必要となります。 また、他の先進国の成功例を参考に、医療制度の改革を行っていくことも重要なポイントとなるでしょう。 今回は我が国における医療の現状、特に医療費の増大に着目してご紹介していきます。 |