延命治療を続けるかどうかは、人の最期を左右する大きな問題です。
本人の意思が尊重されることは基本ですが、意思がなかなか把握できないままその瞬間を迎えてしまうことが実情です。
延命治療に先立ち、書面で意思表示をしてもらう方法もありますが、どうすることが理想なのでしょうか。
延命治療は倫理的な側面での課題も伴うものであり、議論が起こる領域です。
基本的には本人の意思に従って対応しますが、本人が意思表示できない場合は身内が判断することになります。さらに身内が疎遠で患者の人となりをよく理解していなければ、医療者に判断が委ねられることもあります。
そんなとき、どうすることが正解なのかは誰にもわからず、困惑した経験のある医師も多いことでしょう。
回復の見込みがない場合には延命措置をやめるべきなのか、つなげる命は最大限つないでいくべきなのか、これは非常に難しい問題です。場合によっては医師が殺人罪に問われる可能性もゼロではないため、決断が難しいものと言えます。
殺人罪に該当するかどうかは、生存や回復の可能性がどれほど低かったのか、患者は正常な判断が可能な状態であったのか、患者が意思表示をしたのは生命維持装置をつける前か後かなど、様々な要因によって左右されます。
法的にも尊厳死が認められるようになってきてはいるものの、やはり医師が決断することには不安が伴うものです。そうした迷いやリスクを減らすためにできる取り組みとして、患者が書面で意思表示をしておくという方法が挙げられます。
厚生労働省が2013年に行った意識調査によると、一般国民のうち"意思表示の書面をあらかじめ作成しておくこと"に賛成する人の割合は69.7パーセントでした。
一方、反対であると回答したのはわずか2.3パーセントで、多くの人が事前に意思表示をしておくべきだと考えています。
災害がいつやってくるかわからないのと同じように、延命治療の選択をする瞬間が訪れるタイミングもなかなか予測ができないものです。そうしたことから、実際に書面を作成している国民はわずか3.2パーセントしかいないことが実情です。
書面での意思表示をしたいときには、「尊厳死宣言公正証書」を作成する方法があります。これは、各自治体の役場で公証人と呼ばれる人が作る書類であり、延命治療を拒否したい場合にはその旨を記載します。
法的に定められた手続きではないものの、この書面があれば大半の医療機関では尊厳死を許容しています。こうした書面作成はまだメジャーではありませんが、近い将来には普及が進む可能性があるでしょう。
核家族が増え、独居の老人が増える時代になると、延命治療をするかどうかはますます判断が難しくなります。一人暮らしをしている老人だと、交流のある身内や知人も少なく、どんな考えや価値観を持っている人であったのか探りにくいのです。
約7割の人は延命治療を希望しておらず、希望する人はわずか11パーセントといわれています。
多くの人は延命治療を希望していないことがわかりますが、医療者側の判断で延命治療をやめたとき、もしかしたら患者はこの11パーセントに入っていた人かもしれません。
その人の価値観によって判断が異なることも少なくないため、やはり書面による意思表示が定着することは理想といえるでしょう。
延命治療について書面で意思表示しておくべきと考える国民が多いのに対し、実際にはわずか3パーセントの人しか実施していません。
重症化する可能性のある患者に医療機関で延命治療の希望を聴取することはなかなか難しいですが、個人が事前にそうした書類を作成することが当たり前になると医師の不安・リスクも払拭されるでしょう。