トランプ大統領は、選挙中からオバマケアの代替案となる医療保険改革を打ち出すことを明言していました。これはトランプ大統領が提示した公約の中でも核となる事項の一つでありました。
ところが、その代替案が採決直前に取り下げられる事態となり、トランプ政権の位置付けが大きく揺らいでしまったのです。
アメリカにはもともと国民皆保険制度がなく、5000万人程度は無保険者がいるといわれていました。人口の8割以上は何らかの医療保険に加入していましたが、保険に加入できないために医療を受けられない人がいたことも事実です。
2010年には「アフォーダブル・ケア・アクト(ACA)」通称オバマケアによって、これまで無保険だった人々も保険に加入できるようになりましたが、トランプ大統領は公約としてオバマケアを廃止し、代替案を提示することを主張していました。
トランプ大統領の就任前にはオバマケアの枠組みにおいて医療保険に加入しようとする人が殺到するなど、オバマケアの撤廃に先立ち人々が動いていました。
トランプ大統領は大々的にオバマケアの代替案を提示することを明言していましたが、2017年3月24日、オバマケアの代替案として提示された「アメリカン・ヘルス・ケア・アクト」(AHCA)が採決の直前になって撤回されました。
オバマケア代替法案では、メディケイドと呼ばれる低所得者向けの医療保険の予算縮小や、保険未加入者への罰金の廃止などが持ち込まれていました。これらの内容について、共和党の保守派がオバマケアによって恩恵を受けていた低所得者層の有権者からの支持を失うことを懸念し、代替案を不十分だと批判する形になってしまったのです。
トランプ大統領としても、可決されない法案の採決をとるわけにはいかないため、採決自体を見送ることになりました。
共和党のポール・ライアン下院議長は、「当分はオバマケアの下でやっていくことになりそうだ」と落胆した様子。7年間に渡って掲げてきた医療保険制度の改革に失敗した形となり、トランプ政権には大きな打撃となるでしょう。
代替法案の内容的には、低所得者層に対する影響にとどまりますが、自身が提示した採決を見送ったということは政治的なイメージとしても良くないものになります。
オバマケア代替案であるAHCAが可決されていたとしたら、医療保険制度はどのように変わっていたのでしょうか。
提出された代替法案によると、2016年までに3,365億ドルの財政赤字を削減できるとされていました。この数字だけ見るとAHCAにはメリットがあるように思われますが、その一方で無保険者が2,400万人増加するという国民の犠牲が伴う内容だったのです。
しかも、オバマケアが導入されている状況下でも無保険者は2,800万人いるため、AHCAが可決された場合、無保険者が倍近くにまで増えてしまうという事態を招くところでした。こうした犠牲の上に成り立つ赤字の削減には反対の声も多く、共和党内でも意見がまとまりませんでした。トランプ大統領が張り切って提示したオバマケアの代替法案でしたが、内容的にも疑問符がつくようなもので、反対する人も多かったのです。
今後もトランプ大統領が新たな案を考えたり、共和党内の保守派を説得することは想定されますが、当面はオバマケアのままで信頼を取り戻していくことになるでしょう。
トランプ大統領の誕生によって、オバマケアの撤廃は免れないことのように思われましたが、採決の直前になって撤回されるという事態になりました。当面はオバマケアで従来通りの保険制度のあり方が続けられるでしょう。
また、トランプ大統領は政策の遂行能力に疑念が抱かれているため、ここからどのように挽回していくのか注目されます。