昨今、医師の過重労働が問題視されていますが、これからの医療は生産性を向上させつつ、付加価値を高めていくことが求められます。
今回は、厚生労働省が実施した「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の報告書をもとに、今後の医療のビジョンをご紹介します。
医療の質を高める方法の一つに、同じ水準の能力や価値観を共有した医師間で行うグループ診療の存在があります。グループでの診療と聞くと効率性が低下するような印象を受けますが、やり方次第では医師の負担を減らし、生産性を向上させることができると考えられています。
グループ診療の具体的な内容としては、まず医師と他職種の間で業務を移管する"タスクシフティング"が挙げられます。そして、業務を共同で行う"タスクシェアリング"の存在がポイントになります。タスクを他職種に分散し、さらに業務を共同でシェアしながら遂行するという考え方が今後は主流になってくることが予想されます。
医師のタスクを他業種にシフトするための取り組みは、すでに少しずつ始まっています。2015年から看護師の特定行為研修制度が始まり、看護師が実施できる業務が広がりました。医師以外のコメディカルでも実施可能な処置も存在するため、研修を受けるなどの条件を定めることで他職種にタスクを分散可能になります。
また、患者を複数の医師が共同して担当することで、過重労働や医療事故のリスクを防ぐためにも効果が期待できます。このようにして、タスクが一人の医師に集中することを避けて、可能な範囲で業務を他職種にシフトしていく取り組みが始まりつつあるのです。
薬剤師になるためには6年間の教育を受ける必要がありますが、高度な教育を受けているにもかかわらず調剤業務に止まっている傾向にあります。実際に、薬剤師の仕事と聞いて多くの人がイメージする業務は、病院や薬局での調剤が挙げられるでしょう。 ただ、薬剤師は6年間の教育を受けた人材であり、薬剤に関する知識の他、幅広く医療に関わる教育も受けているのです。医療における人材不足の解消には、薬剤師の業務構造を見直すことも鍵となります。
厚生労働省が行った検討会の報告書によると、具体的には医師に対して治療効果・副作用をモニタリングするための検査実施、薬物療法の提案などを通して、薬剤師のプレゼンスを発揮すべきであるとしています。薬剤師が医師のオーダーに基づき、調剤業務だけを単純にこなすのではなく、より積極的に医療に関与すべきであると考えられているのです。
薬学という観点から医師と連携を行うことで、医師の負担を軽減できる可能性があると期待されています。
近年、口腔ケアを取り入れることで誤嚥性肺炎の予防につながることが示され、口腔状態の管理のあり方が注目を集めています。また、歯周病患者は糖尿病のリスクが高くなることなども含め、口腔の状態が全身の健康状態に影響を及ぼすことが指摘されています。
このように、従来はほとんど切り離して考えられていた医科と歯科の連携が重要視されるようになってきています。 これからの医療は"付加価値"をどのようにもたらしていくのか注目されていますが、歯科と医科することによって、より高い水準で医療を提供することが可能となるでしょう。
「チーム医療」という言葉は普及したものの、まだ現実的には医師にタスクが集中していることが実情です。医療に従事する各職種で仕事をシフト・シェアすることを基本とし、AIを始めとするテクノロジーの導入も視野に入れ、生産性と質を高めていく