勤務医の他の勤務先を含めた1週当たりの労働時間は、平均53.2時間となっていますが、60時間以上という人が4割もいます。宿直・宅直・オンコールによる長時間の拘束、36協定による長時間の残業、サービス残業の常態化など、勤務医にとっても過労死は他人事ではありません。
では、どうやって仕事と家庭のバランスをとればよいのでしょうか?
独立行政法人労働政策・研修機構が2012年に発表した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」は、医師の仕事の大変さをよく表しています。
まず、他の勤務先を含めた1週当たり全労働時間は、4割が60時間以上と答え、80時間以上働いている人も10%存在します。特に外科、救急科、脳神経外科、小児科の勤務時間が多くなっています。
年次有給休暇の取得については、約半数が3日以下と回答しており、脳神経外科、呼吸器科・消化器科・循環器科、救急科の医師で取得率が低く、オンコールの回数が多いほど、取得率が下がる傾向があります。
さらに、疲労感があるという回答は60%に上り、その理由として当直が62%、長時間労働が51%、患者やその家族の理不尽な要求が49%、院内委員会活動や会議が49%と続きます。
このように、長時間労働に加えて、診療以外にも多くの時間や労力を使うことがストレスを生み、睡眠や健康の不調を訴える人も増えています。たとえば、睡眠不足を感じると答えた人は46%、健康不安を覚える人は49%と、ともに半数近くに達しています。
さらに懸念されるのが、こうした心身の疲労が診療にも影響することです。実に、76.9%の医師が医療事故につながりかねない、何らかのヒヤリ・ハット体験があると答えているのです。
厚生労働省の2015年「賃金構造基本統計調査」によると、全国の医師の1カ月の平均所定内労働時間は159時間、残業は11時間となっています。 この統計は、主とする勤務先のみの集計となっているため、実感より少ないかもしれません。
次に、医師の平均残業時間や労働時間を診療科ごとに見てみましょう。
厚生労働省が2011年に発表した「病院勤務医の負担軽減の状況調査」によると、残業時間を含む勤務時間が一番長い診療科は呼吸器外科で、1カ月あたり185.2時間(主とする勤務先のみ)で、救急科183.5時間、脳神経外科181.9時間、循環器科181時間と続きます。 残業時間が多いのは、呼吸器外科で26.3時間、次いで、救急科25.1時間、脳神経外科24.3時間、整形外科22.5時間、循環器科22.3時間、産婦人科21.9時間となっています。
ちなみに残業を含む勤務時間が短いのは、眼科の164.5時間、次いで内科164.9時間、皮膚科166時間、消化器外科170時間、麻酔科173.9時間と続きます。 一番多い呼吸器外科と少ない眼科を比べると、月に20時間以上の差が生じています。
長時間労働の原因として挙げられるのは、労使の合意で法定時間外労働や休日労働を可能にする、36協定の存在です。 加えて、宿直・宅直・オンコールなど実質的な拘束時間が長い、勤務時間管理が医師の申告制となっている病院が半数近くある、応召義務、などもハードな勤務状況を生む原因となっています。
解決策として、働き方改革による36協定の見直しや、医師不足・地域や診療科による医師の偏在の解消などが検討されています。タイムレコーダーによる勤務時間の管理といった労務管理の強化、看護職・薬剤師・他の医療従事者との業務分担、医師の事務作業補助体制の強化なども有効とされています。
しかし、こうした解決策は一人の勤務医の努力で実行するのは難しく、また時間もかかります。したがって、現在の勤務先の状況を検証し、早期の改善が見込まれない場合は、自己防衛を考える必要があります。
・よりよい条件の病院を探す
・比較的時間に余裕のある診療科に転科する
・診療所や産業医、製薬メーカーのメディカルドクターなど土日に休める/当直のない職場を探す
などが考えられます。心身の健康を保ち、仕事と家庭の両立が可能な職場探しを考えてみてはいかがでしょう。
通常の診療に加えて、宿直・宅直・オンコール、会議に患者や家族への対応など、診療以外の業務も重なり、医師の仕事はやりがいがあると同時に非常にハードなものとなっています。
政府も対策は検討・実施していますが、改善には時間がかかります。ストレスを強く感じる場合は自己防衛を考え、より自分に合った職場や職種への転身を検討するのもよいでしょう。