製薬医学という言葉を聞いたことがあると思います。医薬品に関する医学知識を統合し、その安全性と有効性を研究する領域で、欧米では医学の専門領域の一つとして確立しつつあります。近年、製薬メーカーで、この製薬医学を生かしたポジションとして、メディカルドクターの求人が増えています。
現在ドイツ、イギリス、アメリカでは1000名以上の医師が、製薬メーカーでメディカルドクターとして働いているといわれます。日本では、その数はおよそ300名といわれ、今後欧米並みに増えていくことが予想されます。
ひと言でメディカルドクターといっても、その業務はどのようなものなのでしょうか?まず、部署ごとにその内容を簡単に見ておきましょう。
臨床開発部は、新薬の開発を担当します。臨床試験実務に参加し、開発計画の策定や同意説明文に対して、医学的見地からアドバイスを行います。
安全性情報部は、開発中ならびに発売後の薬の副作用を評価し、副作用の発生を減らし、重篤化を防ぐ対策を施します。
メディカルアフェアーズでは、担当治療域の疾患に高い知識をもち、開発された薬品に関する科学的・医学的データを、処方医や患者さんにしっかりと伝わるようにします。
メディカル・マーケティング部は、MRと呼ばれる医薬情報担当者が販売のために使用するパンフレットや学術文献の内容が、医学的に正しいかを精査します。
メディカルドクターに興味を持った方もいらっしゃるのではないでしょうか?しかし、その適性や選考基準は、病院や診療所などの臨床現場とは異なります。では、どのような適性や経験が求められるのでしょうか?
製薬メーカーはグローバル化が進んでおり、同じ会社でも海外にある開発拠点とのやりとりが必要になります。また、最新の研究業績を開発に生かすには、海外文献をいち早く参照する必要があります。そのため、論文を正しく読める英語力は必須です。
製薬メーカーが重視している、循環器、内分泌、中枢系、循環器、オンコロジーなどの専門領域、あるいは、がん、免疫疾患、感染症をターゲットにした抗体医薬品・バイオ医薬品などに関連する分野など、専門領域の高い知識や経験を持っていると有利になります。
また、プロジェクト推進のため、企画趣旨の説明、予算管理、スケジュール管理などの能力、さらに関係部署やチームメンバーとのスムーズなやり取りのため対人関係能力も求められます。管理職や経営幹部など、責任と権限があるポジションを目指すには、指導力や統率力も要求されます。
必須ではないものの、5年以上の臨床経験が望ましいとされます。博士号があると有利であることもあり、治験などの臨床研究もプラス評価です。
次に、待遇とメリット・デメリットを確認しておきましょう。
前職での待遇や経験により異なりますが、年俸1200万円から1800万円が目安とされます。2年目からは業績に応じたベースアップも期待できますし、管理職など高いポジションになると、年俸2000万円から3000万円も不可能ではありません。
完全週休2日制で、当直やオンコールもありません。フレックスタイム制のところが多く、場合によっては在宅勤務も可能です。加えて、週1日は病院で診療をするなど、兼業が可能な企業もあります。さらに、育児・介護休暇などの休暇制度も整っていますし、定時での帰宅や有給休暇の消化を気兼ねなくできるため、家族との時間も増えます。
しかし、医師であってもメンバーの一員として、企業内での立場はよりフラットなものになり先生とは呼ばれません。そのため、ステイタスの変化を感じる人もいます。さらに、医学的知識の高さは評価に直結せず、シビアな言い方をすれば、売れる薬が開発できるか、開発した薬が売れるかどうかで評価されます。
治療の成功や患者さんから感謝されることによる、達成感や満足感は少ないです。メディカルドクターとして長く勤務すると、臨床現場に戻ることが難しくなることもあります。
製薬メーカーで、医師が活躍する機会は増加傾向にあります。メディカルドクターは、臨床とは異なる能力が求められますが、長時間労働から解放され、待遇面も遜色ありません。メリットとデメリットをきちんと把握した上で、幅広い見地から、自分に合ったキャリアを目指しましょう。