厚生労働省が2017年4月6日に発表した「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」と「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書」を中心に医療現場における働き方改革を読み解きます。
医師の勤務時間や働き方への意識は、年代・性別・家族構成などで異なります。例えば、20代常勤の男性勤務医では勤務時間は週平均約57時間ですが、40代約55時間、60代約46時間と年齢が上がるごとに減少していきます。しかし、ここに当直・オンコールが加わりますので、実際には週60時間以上、勤務体制にあるといえます。 すべての年代で男性の方が女性より勤務時間が長くなっていますが、これは、結婚・育児が関係しています。男性医師は結婚により勤務時間が長くなり、子どもが小さくても働き方を変えない傾向がありますが、女性医師は結婚や子育てのため、勤務時間の短縮や休職・離職するケースが増え、キャリア形成にも影響が出ています。
地方勤務については、50代以下の医師の約半数が地方勤務をする意思がある一方、その年数については年代で開きがあります。20代は2年から4年が一番多く、30代では10年以上が約5割、40代になると6割を超えます。 地方勤務を希望しない理由は、「仕事内容」「労働環境」が各年代で共通して高く、20代医師は「専門医資格の取得」、30代と40代医師の「子どもの教育」が上位を占めます。 このように、年代、性別によって勤務時間と働き方への意識は異なり、そうした違いに沿った働き方改革が求められています。
高齢化と人口減少の進行によって、医療環境はさまざまな課題に直面しています。 まず、患者側ですが、2025年には団塊世代の全てが75歳以上となり、医療・介護の需要がピークになります。それに伴い、がん、心疾患、生活習慣病に加え、認知症が増加するなど、疾病構造の変化が見込まれます。
さらに、患者の医療への期待が膨張し、ちょっとした違和感でも受診したり、複数の医療機関を利用したりするなど、医療費の高騰が懸念されています。 次いで、医師側ですが、長時間労働に対して、応召義務や労働と研修の区別があいまいなどの理由で、働き方改革が進んでいません。 医師の地域偏在の問題が挙げられます。地方で働く意思のある医師は少なくないものの、指導体制や教育環境を理由に都市部にとどまる傾向があります。
最後に、テクノロジーの進歩による環境変化が挙げられます。ICTを活用した遠隔診療やAIによる診断など、技術革新によりさまざまな効率化が図られ、新たな環境への適応が求められます。 通常の医療業務に加えて、こうした変化への対応に時間と労力を要し、医師の負担が一時的に増えることが懸念されています。
厚生労働省が示した提言は大きく分けて、3つになります。 一つ目は、医師が能力を最大限発揮できる、キャリア形成と働き方を支援することです。労務管理の強化で労働時間の見える化を行い、負担を軽減します。そして、女性医師の柔軟な働き方を推進し、出産・育児によってもキャリア形成が妨げられないよう配慮します。
二つ目は、地域主導です。各地域が医療・介護のニーズを予測し、生活や医師のキャリア形成を地域の自助努力で支援する取り組みを推進します。 さらに、プライマリ・ケアの発展・強化・充実を図るとともに、医療・介護従事者が領域を超えて複数の施設で働くなど、人材の有効活用を最大化します。加えて、「暮らしの保健室」や「認知症カフェ」など、行政と医療機関、地域住民が一体となった取り組みを進めます。
三つ目は高い生産性と付加価値生み出す取り組みです。医師同士、あるいは医師と他職種で行うチーム医療の推進、他職種への業務移管や業務共有を進めていきます。 また、海外の事例を参考に、簡単な診断や処方、手術助手、術後管理等ができる人材として、フィジシャン・アシスタントの創設を視野に入れています。さらに、テクノロジーを活用し、レセプトの標準化・効率化、遠隔診療、AIによる画像診断、見守りロボットの実用化などを推し進めるとしています。
今後、高まる医療・介護への需要と疾病構造の変化に対応するため、業務管理の徹底、他の医療従事者との分業、他業種へのアウトソースなどで、医師の業務は選択と集中が進むと思われます。 同時に、テクノロジーの利用が拡大し、一人一人の医師が能力を最大限発揮することが求められます。最新の動向に常に注目し、変化に対応できる備えをしておくことが大切でしょう。