これからの医療業界に大きく影響を及ぼすことが予想される「ヘルステック」。一般的には「ヘルステック」の認知度はまだまだ低く、医療業界の人間さえ把握しきれていないことが現状です。
今回は、医療従事者が知っておいて損はないヘルステック業界の今にフォーカスして解説していきます。
民間の一般企業と比べ、医療業界には「競争」が少ないことが現状。なぜなら、国が定めた診療報酬によって収益をあげる仕組みがあり、ヤブ医者でない限り患者は地域からどんどんやってくるからです。 長年、医療の「効率化」に関して注力されずにきた経緯があります。
近年、医師不足や医師偏在など人手不足が長年叫ばれ続ける状況にありましたが、それでも積極的にテクノロジーを導入しようとはしませんでした。一部の研究者はテクノロジーの開発を進めていましたが、なかなか大きな変化をもたらすには至っていなかったのです。 ところが、今、医療にテクノロジーを導入しようという動きが高まっており、「ヘルスケア」と「テクノロジー」を組み合わせた「ヘルステック業界」が盛り上がりをみせています。各領域でテクノロジーの応用が進む中、医療業界にもようやく変革がもたらされようとしているといえます。
ヘルステック業界が目指すところは多岐に渡ります。例えば、遠隔医療によって通院のハードルを下げたり、服薬を忘れてしまい症状が重症化する患者を減らすことも期待されています。 また、2016年に診療報酬が改定され、小児・認知症については「主治医機能」が評価されるようになりました。さらに、紹介状がない状況で大病院を受診すると、一定額の自己負担が発生することになるなど、かかりつけ医の機能がより一層重視される流れになっているのです。
かかりつけ医の機能が強化されることによって、大病院と中小病院で患者情報を共有するためのツールが電子カルテ上に付加されることが必要とされています。電子カルテの導入によって、診療記録や臨床検査の結果の管理が容易になったと感じる医師も多いはずですが、そこにさらに患者が受診する病院間でのカルテ共有が可能となれば、一元的な管理・診療が可能となるでしょう。
また、ヘルステック業界では「予防」にも力を入れようとしており、病気の発症を未然に防止する「ウェアラブルデバイス」を代表例として、テクノロジーを活用する動きが高まっています。センサー技術も飛躍的に高まった昨今において、人々の暮らしや健康を支える仕組みが大きく変わろうとしているのです。
ヘルステック業界においては、急速に進歩する人工知能が重要な役割を担うことになるでしょう。特に、画像認識の技術は飛躍的に発展してきており、今後は画像診断において人工知能は欠かせないツールとなっていくことが予想されます。 医師なら学生時代、あるいは研修医時代に心電図の波形を読むトレーニングを行い、苦労した経験のある人も多いでしょう。しかし、そうした作業もヘルステックの導入によって早く、正確に行えるようになることが予想されます。
医療における人工知能の導入には一部否定的な見方をする医師もいますが、診療における全てのプロセスが人工知能に取って代わられるわけではありません。あくまでも、人工知能が得意とする仕事に関しては積極的に活用し、最終的なチェック・意思決定は医師が行っていくことになるでしょう。全か無かという極論ではなく、医療の効率化のため、そして何より患者に恩恵をもたらすために必要なテクノロジーを現場が吸収していく必要があるのです。
これまでの歴史とは対照的に、ヘルステック業界は今勢いのある分野。急速に発展したテクノロジーが医療現場に浸透してくる日もそう遠くはないでしょう。 人間はだんだんと新しいものに対する適応力が失われていくものですが、柔軟な姿勢を持って新たな技術に対応していきたいところです。