AIやIoTの発展により「超スマート社会」、つまり必要なときに、必要なモノやサービスを受けることができる体制が整います。ビッグデータ、サイバーセキュリティ、AI、ロボットといった基盤技術が整備され、サービスプラットフォームとの融合によって新たなサービスの創出が期待されています。
超スマート社会の到来で、共通のサービスプラットフォームが構築され、厚生労働省が計画する「地域包括ケア」を含め、保険と医療、介護、交通システムなどが融合することが予測されます。医療の分野では、血圧、血糖、脈拍、体温などのデータや、食事やカロリーなどの情報が遠隔モニタリングされ、AIが疾病の兆候をいち早く察知し、適切な医療機関の受診を促すなどのサービスが見込まれます。その際、住む場所を問わず遠隔診断で、最適な治療を誰でも受けることができます。 さらに、画像診断支援、医薬品開発、手術支援、ゲノム医療、診断・治療支援、認知症などの領域でAIの活用が進み、高度な医療がより早く、少ない人的資源で行われるようになるでしょう。
介護の領域では、科学的根拠に基づいた介護を実現するため、自立支援促進データベースの開発が進むとともに、ロボットやセンサーの活用で、手入力に頼らずに必要なデータの収集・分析が可能になると思われます。そうしたビッグデータの活用で、現場における効果の実証、介護報酬の決定・改定などが自動化されると予測されています。
1. 大塚デジタルヘルス 大塚デジタルヘルスは、大塚製薬と日本IBMの合弁会社です。精神疾患の電子カルテをIBMのAI、ワトソンを使って解析し、患者に共通する因子から最適な治療を探るサービスMENTATを開発しました。MENTATは分析結果から、治療の難易度、入院期間や再入院率、類似の患者などの情報を提供します。桶狭間病院や藤田こころケアセンターなどで、すでに実臨床への応用を開始しています。桶狭間病院では患者数8000人、入院数5600件、カルテ記述数2000万件のデータ解析を行い、およそ60個の悪化や長期化の因子に分類できたとしています。
2. 国立がん研究センター 個々のデバイスをつなぎ、分散協調的にデータ処理を行う、エッジヘビーコンピューティング技術を開発しているPreferred Networksなどと共同で、「統合的がん医療システム」の開発を推進しています。このシステムは、国立がん研究センターに蓄積された患者の臨床情報やマルチオミックスデータに加え、疫学データや文献情報を、AIにより統合的に解析します。がん患者一人ひとりに最適化された医療の提供を目標としています。
1. キヤノンとZ-Works キヤノンマーケティングジャパンとベンチャー企業Z-Worksが資本提携し、IoTを使った「居室見守り介護支援システム」を開発します。非接触センサーを使い、施設の入居者の心拍数、呼吸数をモニターすると同時にドアセンサーやモーションセンサーで動きを検知し、非常時にはアラートで通知します。 介護職員はモニターされたデータから、入居者の状態や変化をパソコンやタブレットなどで確認し、必要に応じて迅速に対応します。
2. 奈良先端科学技術大学院大学 同大学の准教授、荒川豊氏を中心とするグループが、センサーとAIによる、デイサービス施設において、ケア記録を自動生成するシステムの開発に取り組みます。荒川氏がこれまで研究してきたセンサーによる行動認識技術により、居室内の人の動きのほか、トイレやリハビリの時間を推定することも可能です。さらに、職員が介護をしているとき、介護情報の入力画面がスマホなどの端末に表示され、現場でその都度メモなどを簡単に入力できるアプリも開発中です。
3. 介護ロボット 現在、以下のような介護ロボットが実際に配備され、日々改善されています。 ・ 介護支援:介護者が装着し負担を軽減する装置 ・自立動作支援:要介護者が装着し、歩行訓練などをする装置 ・ 移乗支援:要介護者をベッドから車いすに移動させるときに使用し、介護者の負担を軽減 ・コミュニケーション:要介護者とコミュニケーションをとる会話ロボット ・ 見守り:センサーなどを駆使し、要介護者の動作をモニターして安全を確保
AIやIoTの発達により、これまで別々だった医療や介護の記録が統合され、予防や治療、支援サービスがシームレスに提供される時代になります。大手企業だけでなく、異業種やベンチャー企業からも新たな技術やサービスが次々と提案され、医療はさらに広がり、新たな介護ITビジネスが生まれています。