2016年は仮想現実(VR)元年と言われます。世界的規模での市場拡大化の飛躍によってゲームや映画といったエンターテイメントのすそ野から他分野へとその広がりは目覚ましいものがあります。
医療業界でも仮想現実による活用事例が発表されています。利用されている分野別に3例、ご紹介します。
アメリカの小児の専門病院では、血友病患者に特化したゲームを自ら設計開発し、子どもたちの精神的な症状を緩和する仮想現実(VR)の医療利用をしています。
血友病は注射が欠かせません。しかし、針先に怖さを感じパニックになる先端恐怖症の患者は治療が困難です。「Voxel Bay」は、ステージ上で出現する様ざまな課題をクリアーしていく体験型アドベンチャーゲームです。
患者はヘッドマウントディスプレイ仕様のデバイスを頭にセットし、ロールプレイします。ゲームに集中し緊張感がなくなっている間に針先を入れ込みます。リラックスしている状態を利用して、意識をそらすことで不快を感じさせない方法です。
泣き叫ぶ我が子の様子を見ることがなく親の精神的なストレスケアにもつながります。ただし、課題もあります。ヘッドセットを嫌がるケースもあり改善していく必要性があると、研究チーム担当者は考えています。
今後は、VRゲームの一般市場への販売や共有使用できるよう改良するなど、家庭と地域と連携しながら包括的な医療支援に仮想現実(VR)を利用をすることも視野にいれています。
手術をするのは機械で、ビジョン装置から提供された患者の詳細な情報をもとにコンピュータで機械をコマンドするのが医師、という「ロボット手術」をしている医療機関もあります。NTT東日本関東病院で行われている手術現場をクローズアップします。
手順は、まず医師は術台脇に置かれたPC画面にフォーカスします。映し出された体内の立体画像には、患部が着色され一目でわかる仕組みになっています。患者の手術はロボットアームが行います。
医師は内視鏡から出力される画像を見ながら座った状態で操作装置を使ってアームを動かし、手術が行われます。この仮想現実(VR)の医療の特徴は、手術アームが極細のため、5ミリから1センチほどの細い穴での内視鏡手術が可能なことです。大きく切開する必要がありません。これによって、執刀部の回復が早く患者の体の負担軽減ができるメリットがあります。
また、手術部位が高解像度でわかるため、術部と周辺についての詳細な情報が得られます。オペが緻密に行える利点が挙げられます。
仮想現実(VR)の医療によるトレーニングで、人体を傷つけることなく外科医の手術スキルを高める試みがなされています。
京大病院医療情報部では、眼科と脳神経外科で使用されるシミュレーターを使用し、医学部5年生に仮想現実(VR)手術を実際にさせています。開始から終了までの時間がどれだけ掛ったのか、VR手術中に出血の量がどれだけあったのか、この2つの間にある関係性を図で示し、学生の手術についての器用さといった特性を把握することが行われています。
また、研究中の実施例になりますが、国際医療福祉大学大学院では、工学と医学との繋がりをいかし技術開発をしています。VR手術システムの中の一つであるメガネは、実際に手術をする医師と同様の執刀映像を見学する側も見ることのできる特徴を具えており、リアルタイムでどのように手術を行っているのかがわかります。
仮想現実(VR)の医療利用は始まったばかりです。今後の飛躍は想像に難くありません。
ただし、患者の治療活用には利用上の高いリテラシーと活用スキルが求められます。あくまでも医師が主体者です。ヒューマンエラーがないよう気を付け、患者の安全確保のために役立てる意識は欠かせません。