
研修医といえば、今も昔もハードな労働環境に身を置いていることが実情です。ただ、それを昔からの伝統であるかのように続けていくことは問題であり、長時間労働や過労死の問題が叫ばれる中、対策を講じなければならない段階にきています。
研修医の労働環境
研修医の労働環境の悪さに関しては、年々問題視されるようになってきています。長時間労働が原因で過労死や自殺に追い込まれるケースも少なくないためです。
2016年1月には新潟市民病院で当時37歳の女性研修医が長時間労働の末に自ら命を絶ちました。看護助手をしながら勉強を続けて医学部に合格した後、研修医として勤務。しかし、救急患者の呼び出しが激増したことが負担となり、自ら命を絶ってしまったのです。
監督署の調査では、電子カルテの操作記録から過労死ラインである80時間を大きく超える約187時間、多い月では251時間の時間外労働があったといいます。病院側は「電子カルテの操作記録の多くは医師としての学習が目的」と説明していますが、この説明だけで社会が納得することはないでしょう。
また、2017年7月には、都内の産婦人科に勤務していた30代の男性研修医が自殺。過酷な労働によって命を絶ったとして労災認定されました。産婦人科は特に肉体的にもハードな領域として敬遠されがちですが、この男性の残業時間は月173時間だったことがわかりました。
品川労基署が認定 長時間残業で精神疾患発症が原因
東京都内の総合病院産婦人科に勤務していた30代の研修医の男性が2015年に自殺したのは、長時間残業で精神疾患を発症したのが原因だったとして、東京労働局品川労働基準監督署が労災認定したことが分かった。男性の両親の代理人を務める川人博弁護士が9日、都内で記者会見して明らかにした。認定は今年7月31日付。
男性は15年7月12日に自殺。労基署の決定などによると、直前1カ月の残業は約173時間で過労死ライン(直前1カ月100時間)を大幅に超えていた。
弁護士によると、電子カルテへのアクセス記録などを集計したところ、直前2~6カ月の残業は月約143~209時間だった。電通の新入社員で15年12月に過労自殺した高橋まつりさん(当時24歳)の場合、三田労基署の認定は直前1カ月の残業が105時間で、川人弁護士が電通本社ビルの入退館記録を基に算出すると、最長で月130時間だった。
産婦人科の医師は約10人いたが、長時間残業と休日勤務が常態化していて、男性は直前6カ月で5日間しか休んでいなかった。月に4回程度の当直勤務のほか、連続30時間以上拘束されることもあった。病院近くの寮に住み、妊婦の急変などで休日に呼び出されることも頻繁だったという。
両親は弁護士を通じ、「息子は激務に懸命の思いで向かい、業務から逃げることなく医師としての責任を果たそうとした」「医師も人間であり、労働者。労働環境が整備されなければ、不幸は繰り返される」とコメントした。一方、病院の管理課長は取材に「何も話せない」と答えた。
働き方改革で例外扱い 「医師の過労死促進、撤回すべきだ」
昨年1月に亡くなった新潟市民病院の女性(当時37歳)に続き、研修医の過労自殺が労災認定された。医師は政府の働き方改革で残業時間に上限が設けられた後も例外扱いが5年間続く。川人弁護士は会見で「医師の過労死を放置、促進する。撤回すべきだ」と強調した。
政府は今秋の臨時国会に労働基準法の改正案を提出する。施行後、一般の職業の残業は単月100時間未満、2~6カ月で月平均80時間以内、年720時間以内が上限となるが、正当な理由なく診療を拒めない「応招義務」がある医師への適用は5年間猶予される。
厚生労働省によると、過労死や過労自殺(未遂含む)で16年度に労災認定された医師は4人に上る。【早川健人】
日本産婦人科学会が産婦人科医の労働環境を改善することを呼びかける声明を出し、研修医・医師の労働環境を改善するべく動き出しています。残業時間が当たり前のように過労死ラインを超えてしまう実態については問題視すべきでしょう。
平成 29 年 8 月 13 日
声明:日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会は分娩取り扱い病院における産婦人科勤務医の一層の勤務環境改善を求めます。
公益社団法人 日本産科婦人科学会 理事長 藤井知行
公益社団法人 日本産婦人科医会 会長 木下勝之
このたび、東京都内の病院で産婦人科医専門医研修を行っていた医師の自殺が、長時間
労働による精神疾患を発症したことが原因として労災認定されたことが報道されました。
この報道に接し、私ども日本産科婦人科学会ならびに日本産婦人科医会は、ご本人とご家
族の皆様に対し、心より哀悼の念を表させていただきます。
現場で奮闘していた若い仲間をこのような形で失うこととなったことは、専攻を共にす
る同僚として痛恨の極みであります。この領域の発展・向上を担うべき立場にある学会・
医会は、産婦人科医の勤務環境の適正化に対しきわめて重大な責任を感じております。
私どもは、これまで産婦人科医を増やすとともに、地域基幹病院の大規模化重点化を推
進することを通じて病院在院時間を短縮し、勤務条件を改善するために努力を続けてまい
りました。その結果、分娩取扱病院の常勤産婦人科医数は、施設あたり 2008 年の 4.9 人か
ら 2016 年には 6.5 人へ 33%増加しました。しかし、妊娠育児中の医師の割合の増加等によ
り夜間勤務可能な医師数の増加は限定的で、推定月間在院時間の減少率は 2008 年の 317 時
間から 2016 年の 299 時間へ 6%にとどまっています。
日本産科婦人科学会は、平成 27 年度に「産婦人科医療改革グランドデザイン 2015」を
策定し、継続的な就労可能な勤務環境を確保することを大きな目的の一つとして、地域基
幹分娩取扱病院の大規模化・重点化の推進を提唱しました。24 時間対応が必要な地域基幹
病院の産婦人科では、少人数の体制では、持続可能な体制の維持は不可能、という考え方
に基づくものです。人数が多ければ、当直等の負担を軽減することが可能になるとともに
弾力的な勤務体制への対応も可能になります。この実現のために私たちはさらに産婦人科
を専攻する若き医師たちを増やすとともに、分娩取り扱い病院数の減少も避けられないこ
とを国民の皆さまにご理解いただきたく思います。私どもは、今回改めて強い決意を持っ
て、産婦人科医の勤務環境の改善のためのこの施策を推進してまいります。
わが国の女性の健康と、安全で安心な妊娠・分娩環境の確保のために、産婦人科医は必
要不可欠の存在です。若い医師が強い意欲と希望をもって、安心して産婦人科というすば
らしい専門領域を選択ができる環境を整備することは極めて重要です。
国民の皆さまには安心して分娩できる施設の継続的維持のための私どもの努力にご理解
をいただきますようお願いいたします。また、分娩取り扱い病院の管理者の皆様には、産
婦人科医の勤務実態を把握して、それを正当に評価し処遇するとともに、勤務環境の改善
に取り組んでいただくことをお願いいたします。皆様のご理解とご協力をお願い申し上げ
ます。
ある研修医の苦悩
筆者の知人の医師によると、研修医時代は過酷な日々が続いたといいます。看護師の間でもオンコールは、まず研修医という流れになることが一般的です。当然経験が足りない状況で夜間に呼び出しされても、自力で判断できないことも多く、指導医を呼ぶレベルかどうかをジャッジするために駆り出されていました。
残業や時間外勤務も当たり前で、みんなが通る道と考えて耐えていたのだとか。これは消化器内科でのエピソードですが、診療科によってはハードな業務になることが予想されます。
このように、大なり小なり労働環境について苦労したことのある研修医・医師が大半でしょう。これを、当たり前もしくは誰もが通る道、と解釈して耐えざるを得ないことが若手医師にとっての実情です。
若手から配慮を強く要求するのは現実的に難しい側面もあるため、周囲のベテラン医師の配慮、学会という組織単位でのアクションも含めた社会全体での対応が求められてきます。
現役医師ができる対策

研修医の労働環境は、一朝一夕で変わるものではありません。医療現場における労働環境改善の必要性に対する認識は、一般企業と比べて希薄です。
まず、最低限の取り組みとして、今回日本産婦人科学会が出した声明のように、学会などのまとまった組織でアクションを起こすことが必要になってくるでしょう。社会全体が研修医の労働環境を改善すべきという方向により強く向かっていけるからです。
また、病院規模で働きやすさを見直していくことも必要でしょう。研修医が過酷な労働を強いられてきた歴史は長いので、社会全体のレベルで変容するのには時間がかかります。病院という単位で労働環境の改善に向けた取り組みをすることもマストといえます。
最近は求人情報でも、労働環境の良さや休暇の取得率などを実績として提示している場合があります。働きやすい環境を整備することは病院・労働者の双方にとってメリットがあるのです。
現職の医師にできることがあるとすれば、自分も若い頃は大変だったんだから研修医とはそういうもの、という古い考えを捨てることです。業務のどのプロセスにおいて非効率性が生じているのか分析・改善したり、休暇を取ることを促すなどの配慮はしていきたいものです。
まとめ
研修医の労働環境がハードであることは、暗黙の了解のように受け入れられてきた歴史があります。しかし、長時間労働が問題視される現代においてはもはや通用しないスタイルなのです。現役医師の方は、同僚の研修医・若手医師へ配慮をくばりたいところ。見て見ぬふりをせずにサポートする姿勢を忘れないようにしましょう。