医療関連のベンチャービジネスが、子育て中の母親向けや禁煙治療の遠隔医療に乗り出しました。さらに、千葉大学病院が遠隔医療の教育講座を開始するなど、遠隔医療がじわじわと広がりを見せ始めています。
遠隔医療は高齢化による2025年問題の切り札となるのでしょうか?
遠隔医療が注目されるのには、いくつか理由がありますが、まず挙げられるのは急速に進む少子高齢化です。2025年には、団塊の世代が全て75歳以上の後期高齢者になり、医療や介護の需要や財政支出が一気に上がります。現役世代に負担が重くのしかかる、いわゆる2025年問題と呼ばれる事態となるのです。
慢性的な医師不足に加えて、西高東低と言われるように東日本や東北地方に医師が少ない地域偏在の問題があります。また、研修制度の充実やキャリア形成、居住環境や子弟の教育などの観点から、勤務先に都市部を選ぶ医師が多く、地方や遠隔地では医師の確保が難しい状況が続いています。
その他、小児科、産科、麻酔科、眼科など、特定の診療科で医師が不足する、いわゆる診療科の偏在の問題も解消されていません。加えて、女性医師の割合が増加し、出産・育児によるキャリアの中断、中高年の医師の開業志向の上昇などで、勤務医不足も解消されていません。
遠隔医療はこうした医師不足・偏在の解消、過疎地や離島と都市部との格差是正を促進し、限りある医療資源を効率良く活用して医療費を抑制する切り札として期待されているのです。
では次にどのような遠隔医療があるのか、見ていきましょう。遠隔医療には、患者と主治医との間で行われるDtoPと、主治医と専門医の間で行われるDtoDの2種類があります。
DtoPでは、患者が主治医に経緯や症状を伝え、受診の必要があるかを尋ねる「相談」と、受診中の患者の経過を見る「受診」の2種類があります。
深夜や早朝など医療機関が開いていないとき、過疎地や無医村で近くに小児科などの専門医がいないとき、通院が難しい高齢者などの利用が考えられます。
DtoDは検査画像や数値など専門医の意見が必要なとき、セカンドオピニオンが求められるときなど、医師同士で対話することでより正確な診断を行う際に利用されます。
その他、厚生労働省が進めるプラットフォーム、「地域包括ケアシステム」の一環として、電子カルテの共有や介護・保険・交通機関との連携、高齢者の見守りや介護のデータ化などで、一人ひとりの患者に必要とされるサービスを一元管理する構想も進んでいくと考えられています。
地域包括ケアシステムが構築されると、オンラインの問診をはじめ、薬の正しい服用指導と管理、患者と最適な医師とのマッチング、診療報酬の適正評価と配分、在宅医療での患者の見守りなどの具体的サービスが展開されると予想されます。
遠隔医療はまだ始まったばかりで、課題解決に向けての取り組みがなされている状況です。
オンライン問診では、現状、医師は自ら診察せずに診断書を書いたり、処方せんを交付したりすることができないため、主に実際に診察を受けるかどうかを見極めるための「相談」にとどまっています。
最近では、自宅で亡くなった人で、医師の到着までに時間を要する地域に住む人を対象に、スマホやタブレットなどを利用した「遠隔死亡診断」について、厚生労働省がガイドラインを発表するなど、診療以外の活用も広がりつつあります。
今後、地域包括ケアシステムの構築が進めば、遠隔医療も確実に広がっていくでしょう。
遠隔医療にはいくつかの課題があります。例えばオンライン診療の場合、「診察」と「相談」の線引きを明確にする。効果の実証例がなく、エビデンスが少ないためサービスが拡大しない、といった点です。
他にも、高齢者はIT機器の使用に慣れていないため、IT機器を使用するという点が利用の妨げになる可能性も考えられるため、使いやすい機器の開発が不可欠となります。
また、遠隔医療は診療報酬体系に含まれていないという課題もあります。
遠隔医療を導入するインセンティブが働かないという点も予想されていましたが、政府において2018年度診療報酬改定で遠隔診療が評価される方針を進めているなど、ここへ来て導入への積極的な姿勢が見られています。
診療報酬体系のように、ここで挙げた課題の解決が進めば利用が拡大していくことが予想されます。
遠隔医療は、2025年問題を解決する役割が期待されています。今後、地域包括ケアシステムの構築が進めば、拡大が見込まれるでしょう。すでにベンチャービジネスが参入しており、各地で実証事業も開始されています。
効果が実証され、診療報酬改定によって弾みがつけば、早期に拡大する可能性を秘めています。