米倉涼子主演のテレビドラマ『ドクターX』の影響もあり、フリーランスで働く医師が注目されました。しかし、本当にドラマのようなフリーランス医師は存在するのでしょうか?また、フリーランス医師というキャリアは機能するのでしょうか?
結論から言うと、ドラマのようなフリーランスの外科医はほとんど存在しません。しかし、麻酔科医であれば、フリーランスとしてやっていく道はありますし、実際活動している人も存在します。
これは、外科用スコープなど手術機器の発達によって手術件数が増加している一方で、麻酔科医が不足しているためです。
日本胸部外科学会の統計によりますと、1990年には年間2万例であった呼吸器外科手術は、年に2000件ずつ増加し、2010年には6万例を超えています。このように、麻酔科医のフリーランス化には需要増に対する供給不足が背景にあるのです。麻酔科医専門の求人を扱っている「アネナビ」というサイトも存在しています。
同じような傾向は産科や皮膚科にも見られ、こうした診療科ではフリーランス医師が増えていく可能性があります。
しかし、需要があるからといってフリーランス医師で生計を営むのは決して楽ではありません。例えば1千万円の年収を確保するには、年間48週間働くと仮定して、平均して週に21万円の収入が必要になります。そのためある程度の経験と技量、そして継続的に仕事を得られる人脈などが必要となります。
実は、麻酔科医以外でもフリーランスを選択する医師が存在します。
その理由や背景、働き方はさまざまですが、例えば、出産・育児のために病院を退職した女性医師が、育児期間は正規雇用をあえて避け、フリーランスとして育児中心のスケジュールを組むというケースがあります。
同様に、海外留学をしている医師が、一時帰国の際にアルバイトをする場合も広い意味でのフリーランスと言えます。
さらに、ある程度のキャリアと技術を積み、貯蓄などの経済的基盤もある医師が、自分や家族との時間を大切にしたいという理由で、高い収入や地位を求めず、フリーランス医師というキャリアを選択することもあります。
コードブルーは回を重ねるごとに酷くなる。昨日のは特に酷い。あまりにも酷すぎる。ドクターXもビックリくらいデタラメ。監修の医師は見てるんでしょうか?どうなってるんでしょう?
— 林信成 (@ivrist54) 2017年9月6日
そして、開業を目指す医師が、勤務医を続けながら開業準備をするのは時間的にも体力的にも厳しいため、フリーランスで働き、空いた時間を開業準備に充てるという選択をする人もいます。
この場合、専門外の診療科や在宅医療の専門施設に勤務するなど、自らの知識や経験、人脈を広げ、開業へ生かすことにも役立ちます。
こうしてみると、フリーランス医師というキャリア選択も、目的や理由が明確であれば、十分あり得るでしょう。
ここで、フリーランス医師というキャリアのメリットとデメリットを確認しておきましょう。
まずメリットとして、フリーランスは病院に所属しないため、人間関係のストレスがない、という点が挙げられます。また、月給制度ではなくすべて時給に換算されるため、サービス残業などもありません。
会議など診療以外の業務がないため、自分のスケジュールを自分で管理できるのも仕事と家庭のバランスがとれるという大きなメリットです。1つの病院に留まるわけではないため、幅広い人脈を構築することも出来るでしょう。
逆にデメリットとして挙げられるのは、時給となるため収入が不安定になる可能性があり、病気で働けないときの補償がないという点があります。
毎日違う職場で働くためそれなりの社交性が必要となり、長期的なキャリア形成が難しなる可能性や勤務医と比較すると社会的ステイタスも低く感じらてしまう可能性もあるでしょう。
その他にも学会、医師会、健康保険や年金などの費用が自己負担となってしまうため、そうした点も踏まえて考えておく必要があります。専門医認定方法が厳格化され、フリーランスが不利になる可能性なども考えられます。
こうしてみると、まだまだ経験やキャリアを積みたいと思っている人にとっては、設備や環境の整った施設での勤務の方がよいことが分かります。
一方で、育児、留学、開業など目的や目標が明確で一時期な選択肢として、あるいは、介護やプライベートの充実など、ライフスタイルやライフイベントに合わせるといったケースでは、フリーランス医師のメリットを生かせるでしょう。
高い専門知識や技術がある場合はフリーランスで働くことは可能です。加えて、育児や留学、開業準備など目標が明確で、計画的に多様なスキルや人脈づくりをするため、一定期間フリーランスを選ぶということは十分あり得ます。
しかし、専門知識をさらに習得したい人、これからキャリアを積みたいと思っている人、安定やステータスなどに重きを置く人には、フリーランス医師は不向きと言えそうです。