免疫細胞(キラーT細胞)には、がん細胞や外部から侵入したウイルスに攻撃を加える働きがありますが、特にがんとの戦いが続くと、この免疫細胞は疲弊してしまい、十分な治療効果を得られなくなってしまいます。
その為、これらの免疫細胞を若返らせる技術に関する研究は、かねてから続けられてきました。今回は、それらの研究によって導き出された免疫細胞の若返り技術に関する研究結果などについて解説していきます。
慶應義塾大学医学部と武田薬品工業による研究グループは2017年、かねてから研究を続けてきた疲弊した免疫細胞の若返り技術を開発し、がん治療への応用に成功した事を発表しました。
ここで紹介された技術では、疲弊した免疫細胞へNotchと呼ばれる刺激を加える事で、若返った状態へ転換できる事を発見しました。これにより作り出された新たな細胞は「誘導性ステムセルメモリーT細胞(iTSCM)」と名付けられ、早期にがん治療への応用が可能である事も同時に発表されました。
これらの研究は、慶應義塾大学医学部と武田薬品工業による研究グループによって、AMED革新的先端研究開発支援事業の一環として進められました。
近年、がん治療においては抗PD1抗体(オプジーボなど)のような免疫チェックポイント分子を阻害することが有効である事が分かってきました。また、それと同時にがん患者の腫瘍組織から摘出した免疫細胞を試験管内で培養し、再び患者に体内へ戻す「細胞移入療法」と言う方法も有効であると言う事が分かってきました。
免疫細胞の若返り技術に関する研究が始まった背景には、これらの新たながんの治療法が発見されたと言う事実が存在すると言えます。
がん治療における免疫細胞の若返り技術に関する研究では、疲弊した免疫細胞を免疫細胞の発生を助ける機能がある細胞と共に試験管内で培養しました。これにより、がん細胞に関する情報を記憶したばかりの状態の新しい免疫細胞を生成する事に成功しました。
また、これらの免疫細胞には、寿命がさらに延び、外敵が現れた時の増殖能力も向上している事が確認されました。
これらによって生成された免疫細胞は、ヒトのリンパ腫を移植したマウスに注入する事で、その効果に関する実験がされました。その結果、マウス内のリンパ腫の成長は抑えられ、マウス自身の寿命も伸ばす事に成功しました。
ここまでがんとの闘いで疲弊した免疫細胞の若返り技術に関する研究について解説して来ました。これらの研究によって開発された「誘導性ステムセルメモリーT細胞(iTSCM)」は、早期のがん治療への応用が可能である事も発表されています。その為、がん治療の精度を上げる為に重要な、大変価値のある発見と言えるでしょう。