2017年、体内時計のメカニズムに関する発見がノーベル医学賞を受賞しました。日常的にも「体内時計」という言葉はよく用いられますが、この言葉がどのようにして誕生したのかについてはあまり考えたことがないかもしれません。実は医学においても欠かせない存在となっている体内時計の恩恵について解説していきます。
2017年10月2日、体内時計(サーカディアン・リズム)を制御する仕組みを解明した科学者がノーベル医学賞を受賞しました。体内時計を制御している分子メカニズムの発見に関する功績が認められ、米国の科学者3名が受賞するに至りました。
ノーベル医学賞は、遺伝子編集技術や、がんと闘う細胞のシステムを活性化する研究などは受賞すると予想されていましたが、体内時計を司る遺伝子を特定した研究成果が評価されたのです。iPS細胞のように世界的にもインパクトのある発見ではありませんが、医療においても貢献できるものであると考えられています。
最先端の技術のようなトレンドとはいえない研究成果ですが、スマートフォンのブルーライトが体内時計を狂わせることなどを理解するためには欠かせない研究であり、現代においても意義が高まっているのでしょう。
今や生物学の本はもちろん、一般的な会話の中でも「体内時計」という言葉はよく用いられています。実は、体内時計に関する研究は1970年代から始まっているのです。
研究は植物から始まり、ドイツの生理学者が、マメ科の植物が照射する光に関係なく夜になると葉を閉じる性質があることに気がつきました。生き物のサーカディアン・リズムは光の影響を受けているわけではなく、もともと生物に備わっているものと考えていましたが、具体的なメカニズムは明らかにされていませんでした。
その後、ショウジョウバエを用いた研究で、通常は1日12時間動き回り、12時間を眠って過ごすパターンが存在するにもかかわらず、逸脱した個体がいることを発見しました。周期が異なっていたり、脈絡なく寝たり起きたりするショウジョウバエがいたというのです。
この個体を手がかりに調査を進めていくと、X染色体の一部に体内のリズムに関する遺伝子があることが突き止められました。
このように、体内リズムに関わる遺伝子の情報については先行研究から明らかになっている部分がありましたが、最終的にこの遺伝子を特定したのが今回ノーベル医学賞を受賞した3名の研究者なのです。
1984年・1995年に体内リズムに関わる2つの遺伝子を発見することに成功しました。こうしてみると、ノーベル医学賞を受賞する研究としては古い時代の成果であることが分かります。
体内時計があるという発見は、医学の分野においても大きな恩恵をもたらしました。例えば、どういった睡眠パターンが健康的なのかを考えることができるのも、体内リズムに関する情報があるからなのです。
今や、スマートフォンなどの光を夜間に見すぎると、体が夜を昼と勘違いするといった考え方は定着してきています。また、朝日を浴びると体内時計がリセットされるといった考え方もあり、人が日常生活の中で役立てることができる範囲まで、体内時計の存在は身近なものとなっています。
睡眠障害の患者においても体内リズムの存在は考慮され、症例によっては高度光療法やメラトニンの投与を行う場合もあります。これは、サーカディアン・リズムを改善することによって、望ましい時間帯で睡眠・覚醒できるようなパターンを形成することを目的としています。
体内時計は光や食事、社会的制約、運動などによる影響があるといわれていますが、特に光は重要で影響力が大きいと考えられています。短時間での同調作用があることから、例えば固定夜勤者の睡眠を改善するために、夜間に10,000ルクスの光を照射することで、あえて体のリズムを逆転させる試みも実施されています。
体内リズムを構築するメカニズムが明らかになったことで、様々な分野で応用されているのです。
体内時計の発見がノーベル医学賞受賞と聞くと、意外に思えた方もいるかもしれませんが、実は人々の健康を支える重要な概念となっているのです。実際、睡眠に関する研究も多くなされており、それらを考える上では体内時計の存在は無視できないものとなっています。時代を超えて、人々の健康を支えている偉大な発見といえるでしょう。