ヘルスケア領域においてAIは欠かせない存在になってきています。グーグルなどの大手がAIの活用に積極的であることもあり、急速に発展してきている状況にあります。医療従事者にとっても、「いつ導入されてもおかしくない」という姿勢で身近なテーマとして捉えておくべきものです。
今回は、グーグルが医療にAIをどのように活用しようとしているのかを解説します。
日本においては少子高齢化を迎えており、医療費の削減が重要視されていることは周知の事実です。ただ、医療に関わるコストを削減したいのはどこの国も同じでしょう。できることなら医療費よりも他のことにお金を使いたいと思うのは当然ですし、医師の給料はどの国においても高額になりがちなことも大きいでしょう。
医師がこなす仕事のうちのある部分は、AIが得意としている領域でカバーすることが可能です。AIの得意分野としては記憶・判断・意思決定といったものがありますが、一方で創造性・直感といった部分では人間に劣ります。医療においてはもちろん前例やデータがない状況もありえますし、直感が必要になってくることも多くあります。
ただ、医師の業務内容を改めて考えてみても、データに基づいた判断や意思決定といった作業のウエイトも大きいことが実感できます。医療を展開していくための工程と、医療で求められているコスト削減という2つの要因によって、医療とAIには親和性が高いということが言えるでしょう。
医療におけるAI導入の動きは年々高まってきていますが、近年はグーグルなどの大手も参入し始めており、急速に開発が進んでいます。
例えば、グーグル傘下のDeepMindとUCLH(University College London Hospitals)が提携し、頭部・頚部のがんのスキャン画像を使って放射線治療で照射する部位・しない部位の特定をサポートする仕組みを開発しています。
AIの画像認識によって、放射線治療をすべき部位の判断にかかる時間を短縮できるとされているのです。医師がこの作業を行うと通常は4時間程度かかりますが、AIを使うことでこれを1時間にまで短縮可能としています。これは氷山の一角ではありますが、医療においては膨大なデータを取り扱うため、AIの導入によって大幅な効率化を図ることが予測されます。
研究・開発レベルではAIがどんどん発展してきていますが、実際に臨床現場で実用化される段階に突入しています。
2016年11月、グーグルは失明を防ぐための画像認識技術を発表しましたが、これが実用段階に入ってきているというのです。インドではすでに臨床実験も進んでおり、実用化の段階になっています。
実際、2017年6月にはニューヨークで開催された学会にて、この技術をインドの眼科チェーンに導入することを開始したと報告しており、具体的なアクションに移されています。
この取り組みでは、患者の網膜の画像から小さな動脈瘤の場所を確認できるようになることを目的としており、画像認識の技術が用いられています。糖尿病由来で発症する「糖尿病網膜症」といわれる病気の兆候であり、この動脈瘤を放っておくと失明のリスクが高まると考えられています。それを、AIの力で早期に発見しようというものなのです。
糖尿病に起因する眼科的なトラブルは本来回避できるものですが、インドでは適切な検査が受けられないまま失明する人も多く、糖尿病患者も多いことで知られています。グーグルが開発したAIのテクノロジーによって多くの人が救われることが期待されます。
グーグルが本腰を入れて取り組んでいるAIの開発と医療への応用により、これまで時間を割いていた画像診断の手間も大幅に削減され、医師は最終的なチェックを行うというスタイルが定着する日も近いかもしれません。
現場にAIが導入される日がそう遠くないことは念頭において心構えをしておきたいところです。