少子高齢化の進展による2025年の医療崩壊が危惧されています。危機を回避するための対策の一つとして、遠隔医療の実証実験やアプリ、プラットフォームなどの民間サービスが始まっています。具体的な事例を紹介し、今後の展開を考えてみましょう。
まず、政府や自治体の実証実験や取り組みを見ていきます。
北海道は、離島や過疎地で高血圧や糖尿病といった慢性疾患を抱えた高齢の患者を対象に、タブレットなどの通信端末を使った遠隔医療システムの導入を支援します。テレビ会議システムを使って画面を通じて医師が診察したり、看護師が医師に報告を行ったりします。患者にタブレット端末を貸与する体制やシステム構築の費用補助、IT専門家の派遣などの支援が予定されています。
福岡市と市医師会などはスマホを活用した、「かかりつけ医」機能強化事業の実証実験を展開しています。寝たきりの患者の顔を介護する家族がスマホで撮影し、医師が表情を見ながら食事や排せつ、薬の服用状況などを確認していきます。このシステムにより通院は2週間に1回で済むなど、患者や介護者の負担が大幅に軽減されています。
厚生労働省は「遠隔死亡診断」についてのガイドラインを公表しました。死亡した患者のもとを看護師が訪問し、テレビ電話システムなどを利用して、心停止・呼吸停止・対光反射の消失を医師に報告することで、医師が死亡診断を行います。
利用するには、早晩死亡することが予測された疾患による終末期であること、死亡14日以内に医師による直接対面診療が行われていること、速やかな対面による死亡診断が困難な状況にあることなどの条件があります。しかし多死社会迎え、こうしたシステムの活用が不可欠になると思われます。
民間企業によるアプリやプラットフォームの開発、サービスの提供も進んでいます。
注目を集めているのは、手持ちのスマホやタブレットにアプリをダウンロードし、Webサイトに登録した医師に遠隔医療相談ができるサービスです。利用者は場所や時間を選ばずに専門医に予約や相談をすることができます。さらに、このプラットフォームを利用して、相談だけでなく、かかりつけ医に遠隔診療をしてもらうこともできます。
患者は多忙や通院が困難なときでも診察を受けることができ、保険の適用も可能です。予約の24時間受付やクレジットカード決済に加えて、薬や処方箋の配送サポートも付いているので、登録する医療機関にとっても使い勝手のよいシステムです。
こうしたサービスは、株式会社オプティムが運営する「ポケットドクター」、株式会社メドレーの「クリニクス」、スピンシェル株式会社が運営する「LiveCallヘルスケア」、株式会社メディボヤージュの「メディタイム」、株式会社キッズパブリックが運営する「小児科オンライン」などがあり、多くの医師や医療機関が活用を始めています。
さらに、株式会社バックテックが運営する「ポケットセラピスト」は腰痛に特化し、理学療法士が24時間腰痛に関する相談を受け付けています。
続いて、民間アプリやプラットフォームを活用した事例を見てみましょう。
小田急電鉄では、「小児科オンライン」を福利厚生として導入しました。0歳から15歳の子どもを持つ社員が対象で、子供の体調や気になる症状について1回10分まで無料で相談できます。社員が仕事と家庭を両立できる体制を整え、働きやすい職場づくりに生かしています。
医療法人おひさま会は「ポケットドクター」を導入し、24時間体制の在宅医療、内科外来と遠隔医療システムを組み合わせた診療を始めています。現在、年間約250名の在宅看取りを行っていますが、2025年には在宅での医学管理患者1万人を目指します。
神奈川県の菊池眼科クリニックは「メディタイム」を導入しました。かかりつけの患者で遠方に住む人の再診や術後の経過観察、緊急性があるかどうかの判断などに活用し、地域の人の不安解消に役立てています。
精神科・心療内科を専門とする、東京、高田馬場のオボクリニックは、「LiveCallヘルスケア」を導入しました。精神疾患を抱えた患者は、外出が困難であったり通院を負担に感じたりすることも多いため、自宅にいながらの診察やカウンセリングはメリットがあります。
遠隔医療の推進により患者の利便性が増すとともに、医師不足や地域格差の解消、診断精度の向上、医療費の抑制などが期待されます。今後、診療報酬の改定で遠隔医療の報酬が見直され、サービスの拡大が予想されます。病院や医師は時流を読み、必要なサービスを導入するために常に情報をキャッチしておきたいものです。