病気を治すための知見を得るためには、まず病気に関する情報を収集することが重要です。医学研究をしたことのある人なら、被験者を集めるのに苦労したことのある方も多いのではないでしょうか。情報を集めるのには膨大な時間とエネルギー、そして資金が必要になるものです。
今回は医学研究に新しい風をもたらすApple ResearchKit・CareKitについて解説します。
「Apple ResearchKit」とは、ソフトウェアのオープンソースフレームワークを指しています。これを使って開発したアプリケーションを使うことで、研究者のデータ収集をサポートしてくれます。
ResearchKitを使って開発したアプリケーションを使って、簡単に被験者の登録や研究を進めていけるという、研究者にとってはありがたい内容になっています。これまで母集団のうち、ほんの一握りの被験者を対象に行ってきた研究も、世界中のiPhoneユーザーを対象にデータ収集可能になるのです。
もう一つの「CareKit」とは、自分の健康管理のために役立つアプリケーションを開発できるフレームワークです。こちらもオープンソースのフレームワークの名称ということになりますが、CareKitでは医学研究ではなく、個人向けの医療に着目しています。
例えば、CareKitで開発したアプリケーションを用いることで、自分の健康状態を確認できるだけでなく、必要に応じて医師と直接つながることも可能になります。スキルがあれば誰でもアプリケーションを開発可能であり、これから様々な研究者・開発者が利用していくことが予想されます。
東京大学医学部付属病院の「GlucoNote」は、糖尿病患者・糖尿病予備軍の人をターゲットに開発されたアプリケーションです。AppleのResearchKitによって開発されたアプリの一つとなります。
体重や血圧、歩数といった日常生活上の数値と、糖尿病との関連を研究していくというものであり、iPhoneのカメラで食事を撮影して摂取カロリーを記録し、睡眠時間を記録することもできます。iPhoneにはカメラやセンサーなど様々な機能がついているので、これらを有効活用できるような形でアプリ開発をすれば、遠隔でも必要なデータを収集できるというわけです。
また、ロコモティブシンドロームに関するアプリケーションも開発されています。日本には4,700万人のロコモ患者・予備軍がいるとされていますが、順天堂大学の「ロコモニター」ではiPhone・Apple Watchを使って心拍数・エネルギー消費のデータを収集可能です。
そして、これらの要因とロコモとの関連を調べる調査を行っています。iPhoneだけでなく、Apple Watchを用いてデータを記録することも可能となると、できることの幅が広がります。
そのほか、ResearchKitではメラノーマ(オレゴン健康科学大学)、産後うつ病(ノースカロライナ大学・国立精神衛生研究所)など様々な疾患に関する調査が行われています。
こうした研究を行うとなると倫理審査を通過できるだけの準備・検討が必須になりますが、十分な安全性が担保されれば有益なデータ収集ツールとなり得るでしょう。
ResearchKitは医学研究のデータ収集を容易にするものであり、どちらかというと研究者側に益があるツールといえます。
CareKitについては個人が健康管理をする上で役に立てることが可能です。例えば、子供のヘルスケアを管理するアプリケーション(Duke and Boston Children's Hospital)、糖尿病ケアのためのアプリケーション(One drop)などがあります。
One dropでは、痛み・空腹・めまいなどを継続的に記録し、血糖値と照らし合わせることが可能です。自己管理に役立てることもできますが、必要であれば自分の家族や介護士と情報を共有することも可能です。
どの情報もプライバシーは守られており、どのアプリに何の情報を提供するかについては自分で管理することができます。
これまでコホート研究を行うには莫大な時間・資金・エネルギーが必要でしたが、ResearchKitなら大規模な調査を実現してくれるでしょう。開発や倫理面の考慮には注力する必要がありますが、その価値があるツールといえます。また、身近なデバイスを使った新しい形の健康管理もスタートしています。