地域医療は、医療機関と行政、そして住民が三位一体となって医療上の課題解決や「健康増進」につなげる総合的な取り組みです。高齢化が進み医師の不足や慢性的な疲労状態が深刻化している今、行政と住民の協力が大切になっています。
今回は、地域住民や団体が主体的に取り組んでいる地域医療活動の実例をお伝えします。
新宿区にある医療機関の小児科病棟で活動するNPO団体があります。難病で長い間病床にいる子どもたちとの遊びを通して闘病生活に前向きなることを目的に掲げる「認定NPO法人 病気の子ども支援ネット遊びのボランティア」です。多忙な医師や看護師などの医療従事者がケアしきれない面のフォローアップで地域医療に貢献しています。
「遊びがいのちを支える、医療を変える」をモットーに20年以上活動しているこの団体は、子どもの健全な生育に欠かせないのは遊ぶことだと考えています。病気と闘っている間は痛みに耐える苦労の期間という発想をなくし、笑いもある入院生活を子どもたちに味わってもらえるよう取り組んでいます。
また、活動内容を広く社会に知ってもらうための広報活動にも力を入れています。マスメディアやSNSでのピーアールや大学などでの研究発表及び講座の開催など普及活動を多義にかつ多方面に向けて行っています。
設立25周年に当たる2016年度には、約500名のボランティアが活動参加をしています。1年間に病室の子どもたち約400名とのふれあいがありました。ほかにも以前から行っている「患者の親の支援」では、長い間の看病で疲れている親たちがホッとできるよう団体が病院近くに借りている事務所で、食事の提供をしています。
こうした小さな取り組みを継続すると同時に、患者とその家族、ボランティアスタッフが参加する観光地ツアーなど様ざまなイベントの運営にも精力的にしています。国内の遊びのボランティアネットワークの事務局として中心的な役割も担う実績ある市民団体です。
アレルギー専門医をアドバイザーに、地域医療活動をしている交流会「ウサギクラブ子育て支援サークル」があります。愛知県で設立されたサークルで、アレルギー患者の子どもと親が一緒に参加できるイベントや相談会を開催しています。
立ち上げた代表者は自身の子どもが幼児期に病気がちで、その際の「同じ状況の親同士が一人で抱え込まずにすむ場があれば」という思いがサークル立ち上げの発端です。
幼児教育従事者からの助言などをもらいながら2011年に立ち上げをし、翌年には拠点地の役所から「子育て支援サークル」認定を受けるという過程を経ています。メンバーはエリア内の母親たちで、「病気の子どもを持つ親のサポート」と「地域の母親も参加しながらどうすれば協力体制を整えることができるかについてのアドバイス」を行っています。
取り組みの一例を示すと、重症のアレルギーを持つ子どもの親がどういった対策をすればよいのか、例えば、食物アレルギーから生じる命にもかかわるアナフィラキシーの特徴を解説しつつ、アドレナリンの注射を常備しておくことでリスク回避ができることを専門家の監修を経て、ホームページ上で公開をしています。イラストでの説明にすることで、読み手がわかりやすいよう工夫をしています。
白血病などの小児がんは医療技術等の発展により治癒しやすく、がん診断をされた全体の7割以上の患者が治っています。問題点は回復後の生命保険への加入に支障があることです。この課題を解決するために、会員同士が掛け金を出し合う共済保険制度をつくった相互扶助団体「ハートリンク共済」があります。
新潟県に住む罹患者家族とドクターと趣旨に賛同する有志たちが平成17年につくった共済基金です。例えば、入院時には初日分から保険金が支払われ、事故でも病気でも対象となる手厚い保障内容になっています。
母体となる団体は、認定NPO法人「ハートリンクワーキングプロジェクト」です。特徴的なのは、新潟の新聞社やテレビ局、販売エリアに新潟支部のある飲料メーカーといった地域の企業もサポートをしている点です。また、収益の一部を団体への寄付金とする自動販売機設置をしてもらうことで、小児がんを克服した人たちが就労しやすくする資金にしており、県民だけではなく県内の法人や店舗もこのNPOを通じて間接的に地域医療に携わっています。
平成25年に協力会社の一つである新聞社内に小児がんの元患者が働くことができるカフェをつくり就労支援活動を行ってもいます。また、平成29年には、新潟県内の施設でチャリティーコンサートを主宰し寄付金をもらうなどの様ざまな取り組みをしながら、安定した運営に取り組んでもいます。
地域の住民や企業などが共に手を取り合い同じゴールに向かう取り組みはまだまだあります。医療機関が十分な機能発揮がしきれない課題をクリアーするには、住民の意識の向上や主体的なアクションが欠かせません。
こうした活動を後押しする支援策など行政側が積極的に行う必要もあります。地域医療を充実させるには、医療側と地域住民と行政とが連携しながら活動することが重要です。