医師不足・医師偏在といった問題は解消されているのでしょうか?現場で臨床の業務をこなしているとなかなか見えてこない部分も多いのが実情です。
今回は、地域医療はどこまで改善されたのか、ユニークな事例を交えながら解説していきます。
平成16年に臨床研修制度に変更が生じ、医学部を卒業した新米の医師が自由に研修先を選択できるようになりました。その結果、研修医や若手医師が都市部に集中。制度が変更になる前までは、大学病院が地方の病院に医師を派遣するスタイルをとっていましたが、それが困難な状況になりました。
臨床研修制度が変わってからは、地域医療での医師不足が叫ばれるようになってきました。もう10年以上「医師不足」という問題が提唱され続けており、本当に対策が進んでいるのか疑問に感じる方もいることでしょう。
医療を劇的に改革することはなかなか難しいことが実情ですが、スモールステップで地域医療への対策は進んでいます。
厚生労働省も産科・救急・へき地で働く医師へインセンティブを付与する、医学部の定員を拡大する、看護師の役割拡充など様々な観点で取り組みを続けています。2014年には「特定行為に係る看護師の研修制度」が設置され、看護師の役割拡大を目指しているところです。
このようにして、スモールステップで地域医療の医師不足改善に向けた対策は進んでいるのです。
国や自治体が先導して医師不足解消に向けた取り組みを続けているものの、やはりまだ地方の医師は足りていません。各地域で様々な取り組みを行っていますが、ある地域では一部の医師が重労働を強いられていることも事実です。
徳島県南東部の勝浦郡では、病院が一つしかありません。わずか4名の常勤医で60床の病棟を管理しつつ、外来診療も行っています。常勤医4名の中には定年延長した65歳の前院長や64歳現院長も含まれており、最年少の医師でも50歳手前だといいます。
医師が一人でも欠けると診療ができない状況になることは想像に難くないですし、この状況では休暇をとることもままならないでしょう。このような環境に飛び込みたいと思う若手医師はそう多くないはずです。
こうしたエピソードを耳にすると、徳島県には医師の絶対数が少ないことが想像されます。しかし県全体では医師の数が全国3位であり、決して少なくはありません。医師が偏在している状況がうかがえる事例です。
医師不足解消の取り組みは国や自治体によって進められるものと認識している方も多いかもしれません。しかし、地方の医師会などが中心となって独自の対策をしている事例もあります。
島根県の医師会では、「親父の背中プログラム」という技術向上の機会を提供しています。
家庭医としてスキルアップできる機会として、豚足を使った縫合実習や症例の講義などを行っています。医師会のメンバーで立ち上げたというこのプログラムでは、ベテランの開業医が若手の育成に尽力しています。
地域医療に従事する上で、ネックにはるのはきちんとした指導を受けられるのかという点です。もちろん他の環境的な制約がともなうことも多いですが、やはりキャリア形成のためには重要視される部分です。独自の研修制度があれば、それが目玉となって若手の医師を地方に呼び込むことができる可能性があります。
地域医療が「変わらない」と傍観するのではなく、情熱を持った医師が先導して独自の対策を実施している事例もあります。国や自治体レベルでも取り組みは積み重ねていますが、身近なところから何ができるのか考えてみるのもいいでしょう。