医師としてのキャリアは経験した症例数や、技術レベルなどで評価されることが多いです。ただ、転職や昇進においては学会や論文等の発表といった「業績」が重視される場面もあります。今回は、医師にとっての学会・論文発表の位置付けについて解説します。
臨床で忙しく働いている医師は、学会・論文発表のために準備する時間がないという方も多いことでしょう。業務が多忙であるにもかかわらず、なぜ医師は学会や論文を通して情報発信していく必要があるのでしょうか?
医師は、生涯学び続けなければならない職業です。医学に関する新しい情報は世界中から絶えず発信され続けていますし、教科書の内容でさえ変更されることがあるからです。教科書に書かれていることだけ覚えていれば国家試験は通るかもしれませんが、キャリアを積む上では新たな知見を吸収する力が求められるのです。
蓄積された情報の数々によって今日の医学は成り立っており、医学の発展のためには臨床で得られた発見や考察を発信していくことも重要な役割の一つです。学会・論文発表を通して情報発信していくことも医師に求められる大切な仕事なのです。
医師として生涯同じ病院で働き続けるというケースは稀で、キャリアの中で何度か転職を経験する人が多いです。医師の転職では人間関係のコネクションも影響することが少なくありません。しかし、人材が競合したときには「業績」を含むキャリアが重視されます。
学会発表や論文発表の経験がどれくらいあるのかという視点は、転職や昇進にも影響してきます。もちろん経験した症例数やどこまで一人で治療を行えるのかなど技術的な部分も大切ですが、症例報告などは臨床経験をブラッシュアップすることにもつながります。研究を行うことは論理力や思考力も養われるので、業績があることは評価材料になるものです。
コンスタントに発表を続けているという量的な部分も評価されますが、やはり質も重要です。ほとんどふるいにかけられることなく誰でも発表できるようなレベルの学会や雑誌も存在します。
論文でも数ヶ月から1年以上かけて作成する場合もあれば、1~2週間の準備で投稿できてしまうような日本語論文もあるでしょう。学位をとるために仕方なく論文を書いている人もいるかもしれませんが、向上心を持って少しでもレベルの高い学会・雑誌に投稿したいところですね。
きちんとしたフローで論文を書こうと思うと、たった1本仕上げるだけでも大変な作業になります。まずは参考になる文献を読み漁り、研究を行う上で計画を立てます。そのあとで倫理委員会に承認してもらい、患者からの同意を得てデータ収集に入ります。
結果の分析や考察を行い、文字に起こしていき、論文を投稿してからも加筆修正が必要になります。ただでさえ大変なのに、英語での執筆となるとさらなるエネルギーが必要になるものです。
業績が少ないうちはどんな雑誌でもいいから投稿しようという気持ちになってしまうこともありますが、やはりインパクトファクター(文献引用影響率)が高い雑誌からチャレンジしていきたいところ。見る人が見れば、その雑誌に論文が掲載されることがどれほど大変なことかわかります。
「先輩がよく投稿している雑誌だから」ということで投稿先を選ぶのではなく研究の内容にマッチしていることを前提に、よりレベルの高い雑誌にアプライしてみるのも良いでしょう。
医師としてのキャリアは、臨床における技術や知識だけでなく、学会や論文発表などの業績という形でも問われることになります。社会的にも意義のあることなので、積極的に情報を発信していきましょう。