近年、急速な発展を見せるAI技術。医療現場においても、「画像診断」にAIを活用しようという動きが世界的に広がりを見せており、日本では特にその動きが加速しています。
今回は、最先端のAIによる画像診断技術と将来的な展望、そして今後の課題について解説します。
日本はCTやMRIの設置率は世界トップクラスですが、画像を読み、診断する「放射線医」が圧倒的に不足しています。データはとれるのに、それを診察の情報として解析する力が不足している日本において、AIの活用は、まさに急務と言えます。
2017年10月、日本人の医師が執筆した「ピロリ菌人工診断論文」が専門誌「EBioMedicine」に掲載されました。その論文は、医師とAI,それぞれに胃がんの前段階「ピロリ菌胃炎」の内視鏡画像診断を400人分、1万枚以上の画像から発症の有無を正答してもらうというものです。研究の結果、AIは3分あまりで分析でき正答率は9割近くに上ったのに対し、23名の医師は平均で4時間以上かかり正答率がAIより高かった医師はわずか3名だったと公表しています。
2015年には、放射線科医の国際学会でも人工知能が話題を集めるようになっており、AIはもはやX線、CT、MRIに続く第4の「画像診断革新」といえます。
医療現場におけるAIの活用について、国も関心を示しています。厚生労働省も近い将来、診療報酬改定でのAI活用のインセンティブ付けを目指し、「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」にて検討を開始しています。
またAIを活用した診療支援技術を医療機器として承認することを見越し、ガイドラインの作成を目指しています。
アメリカの研究者によると今後15年から20年以内には、ほぼすべての画像診断領域において、AIが使われるようなるという展開を示しています。更に、今後5年以内にはまずマンモグラフィや胸部X線撮影による診断にAIが使われるようになるという展開も示しており、AIが医療の現場に導入されるのはもう遠い未来の話ではなくなっています。
研究・開発段階であるAIですが、すでに正答率は人間と同等かそれ以上の正答率を出しています。一方でAIを医療現場で活用するためには、まだ課題も多くあります。
第一に画像診断におけるAIのアルゴニズムは不明瞭であるため、診断された結果の根拠を医師が説明することは困難という課題です。現在、AIのアルゴニズムはまさに「ブラックボックス」ともいえる状態ですが、この部分が解明されればより医療現場でのAIの活用は現実味を帯びてくるといえます。
次に、AIの正答率は技術の進歩により上昇していますが、100%とはいきません。万が一、AIの診断を医師が採用した結果その診断が誤診だった場合、責任の所在はどこになるのかという課題もあります。
厚生労働省は「最終的な意思決定は医師が行い、その責任も医師が負うべき」という見解を示している他、法律でも医療行為を行うのは医師のみと記載されています。 よって、現実的にAIを導入するとなると「責任の所在を明確にしなくてはいけない」という課題があります。
最後に、AI技術の開発が仮に進んだとしても、AIによる画像診断機器が医療機器として承認されるまでは、まだまだ時間がかかるのが現状です。
先ほど「15年から20年以内にはほぼすべての画像診断領域においてAIが使われるようになる」という研究者の展望をご紹介しましたが、実際に日本国内の医療現場においては、厚生労働省が実用化に向けて検討を開始したものの、実際に承認され実用化に至るにはまだかなりの時間がかかることが予想されます。
現段階ではAIが医師に代わり、画像診断を全てになってくれるまでには至っていません。今後、高齢化が進み医師の負担も年々大きくなる中で、AI技術の向上は、医師を手助けするツールとして一役買ってくれることが期待されています。