人口の高齢化に伴い、国が在宅医療を推進していることを背景に在宅医療を行う診療所等の勤務医師募集の件数は増加傾向にあります。医局や学部では経験できない医療の形であるためなじみが少ない医師がほとんどですが、患者さんやその家族との触れ合いが多い点や、待遇の良さなどの特徴から転職先として魅力ある選択肢でもあると思います。今回在宅医療で働くことの特徴についてまとめてみました。
個人宅や、施設への訪問診療が主な業務になり、患者さんや家族に対する一般的な問診や聴診触診等の診察を行って必要な処置や処方を行います。
訪問での検査手技としてはポータブルエコーや血液検査、ポータブルレントゲンなどが可能な施設もあるようです。高齢者のジェネラルケアが主で、転倒に対する外科的処置やIVH管理、在宅人口呼吸器の管理などが求められることもあります。一般内科や一般外科、家庭医にニーズがあります。また、ペインコントロールや終末期医療、精神科等の専門性も喜ばれる傾向があります。
居宅患者への訪問診療では1日10名程度の患者を14日に1度のペースで診療することが一般的です。患者や家族との関係が密接になるため、ゆっくりと丁寧な問診や診察を行う姿勢がもとめられるようです。施設訪問が主な業務になる場合は居宅患者中心の場合より、ややビジネスライクになる傾向があるようです。
大きなメリットとしてはその給与の良さで、10年目医師で急性期病院より300万から400万多い求人が一般的です。訪問数に対して報酬が増額する給与算定方法をとるところも多く、努力が報酬に反映されることも魅力です。また、診療所併設のクリニックでは多様な医療形態での経験を積むことができますし、新規クリニックの院長としての求人もあり多額の自己資本を用意することなしに診療所経営者としてのキャリアを積むといったことも可能です。
地域医療への貢献度は大きく、患者の希望をくみ取りながら、患者の家族や看護師、介護職や栄養士など多職種でのチーム医療を実践して行くことで、患者が病気とともに自分らしく過ごしていくことを支えていきます。患者の生活圏の中に深く入り込んで医療を行っていくため、全人的医療を志す医師には最適の職場といえるでしょう。
また、キャリアアップのため専門医取得を目指す場合、在宅医療学会の基準では5年目以上の医師に対して臨床研修の期間を1年としており、専門科での後期研修が3年から4年必要な他科の専門医制度より研修病院での専門研修の期間は短くなっています。在宅医療に5年間携わり必要単位を満たせば専門医試験の受験資格を得ることもできます。
在宅医療の推進に伴って、在宅診療支援診療所の届け出は右肩上がりに増えており、患者数も今後増え続ける見込みです。診療所には24時間対応が可能な医師が必要と義務付けられており、待機やオンコール対応が必須です。
しかし施設ごとにその負担を減らすよう様々な対応をしており、看護師が一時対応をする場合や、医師数人でオンコールを分担することも多く、オンコール対応なしの求人も見られます。
また、在宅医療に関しての情報に接する機会が少なく、大学での教育体制等が整っていないことも在宅医療に挑戦しにくく感じられる原因の一つとして挙げられます。多くの医師は、それまでの他科での経験を活かしながら実地にスキルを身に着けていっています。
高齢化社会の中で重要度を増してきている在宅医療。保険点数上の優遇やこれから患者数の増加が見込まれることからも将来性のある分野の一つと考えられます。また、患者とのかかわり方の面では一般病院での働き方とまた違った魅力のある分野だと言えるでしょう。地域社会を支える在宅医療の医師として働くという選択肢を転職の際に考えてみてはいかがでしょうか。