Apple Watchの医療への応用が広がってきました。医療スタッフと患者のコミュニケーション、病院内でのスタッフ同士のやりとりなど、Apple WatchとiPhone、iPadを連動させて活用する動きが進んでいます。その背景と取り組み事例を見ていきます。
入院患者の治療のため、医師は病室や処置室、ナースステーションなど様々な場所を移動しています。病室に入る前に患者の最新の状態を把握しようと思えば、医療機器を操作したり、カルテを参照したりすることも必要です。
しかし、Apple WatchやiPad, iPhoneを連動させて活用すれば、患者リストから、それぞれの最新の状態をすぐに確認することができます。さらに、検査結果が瞬時にApple Watchに通知され、治療の指示や退院の判断が即座に行え、治療が効率化します。
アメリカのルイジアナ州にあるオシュナー・メディカルセンターでは、入院時に患者一人一人にiPadを渡しています。患者は治療方針やスケジュール、与えられた薬の情報、担当医師のプロフィールなどを閲覧することができます。こうした情報に触れることで、患者は治療メンバーの一人としての自覚が芽生え、自らの治療に積極的に関与することができるのです。
高血圧や糖尿病など慢性疾患は、退院後の自己管理が大切です。Apple WatchやiPadを活用することで血圧や血糖値などの生体情報を適切に管理し、そのデータを医師とシェアすることでアドバイスをもらったり、通院回数を調整したりすることもできます。
先に紹介したオシュナー・メディカルセンターと類似のケースになりますが、新百合ヶ丘総合病院では、医療現場のスタッフにApple Watchを導入することを決定しました。すでに患者やスタッフ同士のコミュニケーションにiPadを活用しており、今後Apple WatchやiPhoneも併用し、翻訳アプリを使った外国人患者とのコミュニケーションや、LINE WORKSの活用なども視野に入れています。
新たな診断・治療への活用としては、心房細動の検知が挙げられます。例えば、Apple社はスタンフォード大学と協力し、心房細動を通知する取り組みを始めています。まず、Apple Watchに搭載している心拍センサーを使い手首の血管の血液を調べます。次にこのデータをApple Heart Studyというアプリで解析し、心拍の異常を検知することで、心房細動を判断します。
同様に、心房細動診断機器メーカーの米AliveCor社は、2017年12月Apple Watchで心電図をとることができる、KardiaBand発表しました。この装置はApple Watchを手首に固定するためのベルトで、心房細動を検出する機能を持っています。すでにアメリカ食品医薬品局、FDAの認証を受けており、今後日本で活用されることも考えられます。
Apple Watchに適用可能な医学アプリケーションも、すでにいくつか開発され、アプリを活用して、高血圧や睡眠時無呼吸症候群の診断や、非侵襲血糖値センサーの実用化が検討されています。Apple Watchを医学研究のために活用する動きもあります。
例えば、自閉症の初期診断は米国では平均5歳でしたが、Apple Watchで収集したデータを分析することで、生後18カ月で診断を下すことが可能になるとされます。
さらに、てんかん患者の生体情報をApple Watchで収集・分析し、発作が起こる前兆をとらえるアプリの開発も行われています。完成すれば、発作へのアラートを発信でき、車の運転などを直ちにやめるなど発作に備えることが可能になります。
Apple Watchそのものが米国で医療機器として認められるには、FDAの承認が必要なため、すぐにというわけではありませんが、近い将来医療用Apple Watchが登場することも考えられます。
Apple WatchやiPad, iPhoneを連動させて医療に活用することで、治療が効率化、個別化できます。さらに退院後に患者自身が心拍数や血圧、血糖値などのデータを取り医師と共有することで、必要な対策をタイムリーにとることができます。新たな治療法や診断法の開発にも利用されるなど、Apple Watch活用範囲は今後も拡大していくと予測されます。