大学・大学病院、企業が提携してAIを医療に活用する試みが活発になってきました。AIによる医療支援構想には、画像診断や遠隔医療、業務の効率化など様々なものがあります。そこでここでは近年の大学での取り組みを紹介します。
AIやビッグデータを活用した医療支援は、幅広い領域にわたっています。
まず、個人を対象とした健康管理、生活習慣適正化支援が挙げられます。モバイル機器を使い、個人の血圧や心拍数などの生体データを収集します。そのデータをAIが分析し、各人に合った健康法や生活改善などをアドバイスします。
同じ仕組みを企業や医療保険者、自治体が応用すると、職員の健康増進、医療費の適正化につながります。職員の生体データに健康診断の結果を加えて健康管理に生かし、医療費を抑えると同時に会社や団体が負担する保険料を減らすことができます。
続いて、患者、介護者、医療従事者を対象とした疾患管理、医療・介護の効率化、健康長寿へのアドバイスがあります。
電子カルテの情報や患者の生体データを分析し、疾病の状況をタイムリーに管理するとともに適正な人員配置を行い、医療スタッフの負担を軽減し効率性を高めます。さらに退院後の健康管理に活用して、患者の健康寿命を延ばします。
健康関連企業や生命保険会社が個人の生体データや遺伝子情報などを収集・分析すれば、発症確率や発症後の進行予測など、高付加価値の健康サービス、新商品開発につながります。
さらに、医療・医薬品の改善・開発・革新、あるいは行政、研究機関などを対象とした健康政策、医療・介護政策にもビッグデータとAIの活用が期待されています。
AIの分析や予測の精度を高めるには、多くのデータを利用することが必要ですが、同時に質の高いデータを使うことも重要です。誤ったデータをAIに学習させると、誤った結果が生まれてしまうからです。
日本は高齢化により、感染症などのシングルファクターの疾患よりも、認知症や生活習慣病のようなマルチファクターの疾患が増えています。
複合的な要因で起こる疾患は、治療法や効果のある薬が一人ひとり異なる場合も多く、医療の個別化を進める必要があります。加えて、患者数の少ない疾患は1施設では十分なデータを集められないため、幅広い施設からデータを収集することが欠かせません。
現在、医療機関や大学、研究所、製薬メーカーは各自でバラバラにデータの収集や保管を行っています。電子カルテに関してもシステムによってデータの項目が異なっているため、こうしたデータをなるべく早く統一し共有するシステム開発が求められています。
データ統合の具体的な動きはすでに始まっています。例えば、日本医療情報学会によって策定された、SS-MIX2標準化ストレージや、多目的臨床データ登録システムMCDRSなどがその代表的な例です。
医療データ基盤の構築が徐々に進められており、次の段階として実際にAIに分析をさせ効果を実証する動きが活発になってきました。
具体例として、まず、京都大学と富士通の取り組みがあります。京都大学医学部附属病院内にて蓄積された患者データを富士通の持つAI、Zinraiで分析し、診療支援や創薬に活用する試みです。
次に、千葉大学と東芝の取り組みがあります。HE染色法で処理された転移リンパ節組織画像をAIで分析し、胃がんのリンパ節転移を検出する共同研究を進めています。
このほか名古屋大学医学部附属病院とメディカルITセンター、サトーヘルスケアが共同で行なう「スマートホスピタル構想」の実証研究があります。患者と医療従事者双方がIoT機器を身につけ、バイタル情報を収集・記録・集約します。これをAIで分析し、適正な人員配置や医療事故防止などに役立てる構想です。
また、広島大学はレセプトや健康診断データをAIに学習させ、糖尿病や心筋梗塞などの重症化を予測し、保健指導に生かすシステム開発を進めています。
医療情報データベースの構築が進められ、AIに実際に分析させる実証実験の段階に入ってきました。京大と富士通の例は医療支援と創薬、千葉大と東芝の例は医療診断、名大病院のケースは業務の効率化と事故防止、広島大学の場合は重症化予測と保健指導が目的です。このように、AIを活用した医療支援にはさまざまな可能性があります。