超高齢化が進む日本において、現在、医療界では予防医療に関心が高まっています。これまでの発症してしまった患者の病気を治す医療から、病気になることを防ぐことで医療費を抑制する、コストを意識した医療への転換が望まれています。
この予防医療の分野にAIの技術を利用し生活習慣病を改善する試みに関して、具体的に解説していきます。
近年、日本は高齢化社会が進み、1965年には65歳以上の高齢者1人を20歳から64歳までの現役世代9人で支えている状態でしたが、2012年には高齢者1人を2.4人で支えている状態です。さらに今後の、2050年には高齢者1人に現役1人という割合になるという試算があり、非常に大きな問題となっています。
日本人の死因の3大原因は、悪性新生物と呼ばれる「がん」、狭心症や心筋梗塞などの「心疾患」、脳出血や脳梗塞・脳卒中などの「脳血管疾患」と言われていました。近年、肺炎が増加傾向にあり脳血管疾患での死亡人数が減少している中、肺炎での死亡人数は増加し順位が逆転し、「がん」や「心疾患」についで3位が「肺炎」とされています。
これらは、生活習慣病と言われ、特に、一部のガン、虚血性心疾患、脳卒中などは生活習慣の改善により、ある程度は発症を予防できるというデータがわかっています。具体的には食生活の改善、運動療法の導入、禁煙や飲酒の摂生などを取り入れることで、虚血性心疾患、脳卒中、血管病変の誘因となる糖尿病などの疾病の約80%を予防することができると言われています。
そして、予防医療が叫ばれる最大の理由は医療費の高騰です。
厚生労働省の試算では2014年度の概算医療費は、前の年度に比べて1.8%増加、40兆円に達し、過去最高額となっています。最高額の更新は12年連続で、年間の医療費が初めて40兆円を突破するのが確実になったと言われており、国の財政を圧迫しているのです。
このままいけば、せっかく世界最高レベルの日本の医療が経済的な問題で遂行できなくなる可能性があります。今後、予防医療が進めばこの医療財政の改善につながると言われています。
近年、医療の様々な分野へのAI技術の導入が試みられてきています。例えば画像診断の分野でその効果が期待されています。レントゲン写真や、CT、MRIなどの画像診断において、膨大な検査データをAIに組み込むことで、医師が見逃すほどの小さな病変を見つけることも可能になります。
さらに、AIの優れている点は、人間では膨大な時間がかかるこのような作業を、瞬時に、かつ的確に行えることです。また、疾病に応じた治療内容、健康診断の数値、その推移などのデータを組み込むことで、より効果的な予防医療が行える可能性が出てきているのです。
人工透析のような年間数百万円も医療費がかかる疾患に対して非常に期待がかかっており、AIデータを組み込んだ予防医療を行うことで人工透析が必要になる前に基礎疾患である腎臓疾患や脂質異常、糖尿病などを改善、予防し、透析を防ぐことが可能になります。
これらのビッグデータを活用することで、どういう生活習慣が疾患予防、改善につながるのかの検証にも役立ちます。 医師も、そのデータを検討することで、より効率的な医療介入をする手助けにもなります。
医療費の高騰は日本だけの問題ではなく、医療先進国であるアメリカでも危機的状況が訪れています。アメリカでは年間の医療費の総額は約3兆4000億ドル、日本円にして370兆円ほどになります。日本のように国民皆保険ではありませんので、個人が民間医療保険に加入することで高額な医療費をカバーする仕組みになっています。
これには大きな問題があり、高騰しすぎた医療費のために一般の米国民が高度な医療を受けることができないといった、日本よりもより深刻な例が出てきているのです。世界最先端の医療技術を持つと言われる米国の医療を、経済的理由により患者が受けることができないという状況です。
このような問題に対応すべく、前アメリカ大統領オバマ氏のもとで医療保険制度改革、いわゆるオバマケアが提唱されました。しかし、政治的な対立もあり、この政策はうまくいっていない現状があります。
ここで注目されてきたのが近年話題の予防医学です。
高額な医療費が必要になる重症疾患になる前に、適切な医療介入を行うことで病気になることを防ぎ、医療費を抑えようとしています。米国シリコンバレーの技術とAIを組み込むことで国家的な予防医療へのアプローチが行われています。
以上のように、最新のAI、IT技術と医療をコラボレーションすることで、より効率的な医療を行えるようになります。このため今後は医療機関とIT企業、自治体、各研究室が協力し、予防医療に対して国家レベルの取り組みがなされることに期待がかかります。