AIやIoTなどテクノロジーの進歩により、社会は大きな変化の時代を迎えています。特にIT企業は先進のテクノロジーに強いだけでなく、商品販売やモール運営、SNSやサーチエンジンなどの提供を通して、相当量のデータを保持しています。
世界中で健康意識が高まっており、こうしたIT企業が医療進出を果たす事例が増えています。
IT企業は最新のテクノロジーを開発し、それらを駆使したサービスを提供によって時代をリードしてきました。その過程で、多くの個人データを収集・管理しています。
企業の公開情報や各種調査によると、Facebookの月間アクティブユーザーは全世界で21億人、Googleは20億人、マイクロソフトWindowsのユーザーは15億人を超えているとされます。電子商取引では楽天とAmazonの存在感が突出しており、日本国内のショッピングアプリ利用者は両社ともに約1300万人に上っています。
経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、BtoCの電子商取引市場は2010年以降毎年伸び続け、2016年の市場規模は15.1兆円となっています。さらに日本人が米国や中国などのサイトから商品を購入する越境電子商取引は、2400億円にものぼります。
米国の消費者が日本や中国の事業者に対して行う越境電子商取引は1兆円、中国の消費者が日本や米国の事業者から購入する越境電子商取引は、2.2兆円とされいずれも前年より増加しています。このように、インターネットを通したサービスは生活に浸透し、グローバル化が進んでいるのです。
AIが機械学習やディープラーニングを行うには、大量の質の高いデータが必要です。IT企業にはこうしたデータ基盤が既に存在していると同時に、先進国では長寿化・高齢化が進行し、健康への意識も高いことから、IT企業による医療サービスへの進出が活発になってきているのです。
IT企業による医療進出の収益モデルをいくつか紹介しておきましょう。
まず、電子商取引サイトの場合、薬やサプリメントの販売と管理が考えられます。購買履歴から買い忘れを防いだり、関連する健康食品やグッズの推奨をしたりすることが想定されます。
プラットフォームとアプリの開発・運営をしているサイトの場合は、血圧や脈拍などの生体データを収集することで、診断や管理を行い、生活習慣の改善指導や疾患・介護の予防に活用することが考えられます。
プラットフォームとアプリを病院など医療施設で運用すれば、患者の状態をリアルタイムに把握し、迅速に適切な処置を行うことができ、業務が効率化します。スタッフの労務管理や人員配置などにも活用でき、病院の業務全般を支援することが可能です。
さらに、企業や健康保険協同組合などでこうしたプラットフォームとアプリを活用すれば、保険料の適正化や抑制にも効果があります。
Amazonの米国での事例になりますが、JPモルガン・チェース、バークシャー・ハザウェイと共同で、従業員を対象にヘルスケアサービスを手がける新会社を設立しました。3社の従業員は合計で100万人を超えるとされ、多額の医療保険料を削減する取り組みを行います。同時に、Amazonは医療保険分野進出を狙っているとも囁かれます。
Amazon, Berkshire Hathaway and JPMorgan Team Up to Try to Disrupt Health Care https://t.co/txDhbWkseK
— マックスメディカル〔医師〕 (@maxmedical_dr) 2018年2月16日
Appleは、世界中に行き渡った同社のタブレットやスマートフォン、プラットフォームを活用して、病院内での業務効率化や患者の健康管理、生活習慣改善や医学研究サポートをすでに実施し、さらに拡大・強化していく方針です。
マイクロソフトは、2016年9月にMicrosoft AI and Research Groupを設立しました。世界で5,000人規模の要員によるAI研究を行うほか、ピッツバーグ大学医療センターなどと協力して、患者記録サービスやAIを活用した放射線治療計画を立てるソフトウェアの開発を始めています。
医療進出は中国のIT企業にとっても宝の山のです。中国政府は2020年までに世界水準のAI技術を目指し、2.5兆円を投資することを決定しています。こうした追い風を受け、アリババの子会社アリヘルスは画像診断サービスに参入し、バイドゥはチャットによる医療コミュニケーションサービスに参入しています。
日本企業の動きとしては、ユーザー数4000万人を持つミクシィが、SNSやゲームの活用によって、高齢者の孤独を解決したり、健康増進や生活習慣改善に役立てたりするサービスを開始するとしています。
ミクシィがヘルスケア参入 実店舗やアプリも展開:日本経済新聞 https://t.co/Jjjs7BJrbA
— マックスメディカル〔医師〕 (@maxmedical_dr) 2018年2月16日
このように、医療進出はIT企業にとって、これまで培ってきたテクノロジーと顧客データの組み合わせを生かせる、金の鉱脈といえるのです。ビジネスモデルはさまざまですが、医療現場にはこうした新しいテクノロジーやサービスがますます導入されていくことでしょう。