製薬メーカーでの仕事、MSL、メディカル・サイエンス・リエゾンという職種・ポジションをご存知でしょうか?医療機関での認知はまだそれほどではないようですが、近年その存在感が増しています。どういったキャリアなのか、ご紹介していきましょう。
製薬メーカーの医薬品情報を提供する仕事としては、MRがよく知られています。しかし、MSLはMRとは全く異なる仕事です。その役割は医薬品や疾患に対する高度な専門知識を有し、医師を始めとする医療関係者が必要とする薬剤に関する知識を、科学的根拠を持って臨床の立場から提供するものです。販売を目的としないため、営業的な活動は一切行いません。
2013年ごろから求人が増えており、2011年から2015年までの間に求人が30倍になった転職サイトもあります。外資・内資問わず製薬メーカーがMSL強化に動き出したことに加えて、医薬品の営業やマーケティングを受託する機関でも獲得に乗り出しています。この背景には、新薬がプライマリケア領域からスペシャリティ領域にシフトし、高度な情報提供が求められているという事情があります。加えて、利益相反マネジメントの観点からも導入の動きが活発になっているのです。
日本製薬医学会は、2年に1度日本国内の製薬メーカーにMSLに関するアンケートを実施しています。2017年度の調査では内資系企業19社、外資系企業12社の計31社から回答を得ています。その結果によりますと、1社あたりのMSLは24.8人で2011年調査の22倍となり、中には110人のMSLを雇用している製薬メーカーもあります。
MSLの主な業務としては、TL=ソートリーダー、KOL=キー・オピニオン・リーダーと交流し情報を入手し、社内にフィードバックすることが第一に挙げられます。TLとは、特定分野における第一人者や最先端の研究を行う人で、自らの考えを述べ、業界を牽引する人たちのことです。KOLとは、大学病院の教授、大きな病院の院長クラス、専門医療分野の権威など医療現場に影響力を持つ人を指します。
次に、患者のアンメットニーズの収集・解釈を行って、未充足な分野や事項を洗い出すとともに、メディカルアドバイザリーボードの立案・実施を通して、専門家から意見を聞き、医療環境の見通しを明確にする役割があります。
さらに、顧客に対して医学・学術情報を提供する、未承認薬や承認薬の適応外使用に関して情報を提供することも重要な役目です。そして近年重視されているのが、収集した情報をもとに新薬の開発の方向性、研究開発支援、エビデンスの構築、製品のブランド戦略、市販後のR&Dといったことをトータルにコーディネートする、メディカル戦略の立案とマネジメントです。
業績評価は、TLやKOLの訪問件数や情報入手、臨床研究支援数や論文投稿数、調査・研究などに重点が置かれています。MRとは異なり、医学的・科学的な視点からの情報提供を重んずるため、自社製品の売り上げと評価は連動しません。
求められる人材としては、医師、薬剤師ですが、現在は薬剤師の比率が高いため、今後は医師の求人を増やす企業が多くなると予想されます。望ましいスキルや能力については、疾患領域において高い専門性を有することが第一です。さらに、科学的合理性と倫理的妥当性をもとに、物事を公正に判断する能力や法令遵守など高いコンプライアンス意識が求められます。
加えてTLやKOLとの交流、さらには社内での円滑な意思疎通が必要なため、コミュニケーション力やプレゼン力も重要です。さらにチームとして業務を推進するため、リーダーシップや協調性、ビジネスパーソンとしてのマナーなど社会性も必要です。外資・内資を問わず製薬メーカーは国際化が進んでいるため、英語力も磨いておいたほうがよいでしょう。
気になる年収は1000万円程度からで、中には2000万円を提示されるケースもあります。今の職場よりも少ないと感じる向きもあるかもしれませんが、土日が休みで当直やオンコールもなく有給休暇も取りやすいとなれば、検討に価するのではないでしょうか。
MSLは臨床現場ではまだ広く認知されていないかもしれません。しかし、新薬がスペシャリティ領域にシフトするなか、医薬品と臨床現場を橋渡しするスペシャリストとしてその存在感は増しています。医薬品の売上や営業活動とは一線を画し、専門家として医学的知見を生かせるキャリアとして検討してもよいでしょう。