政府が全ての健康保険組合に対し、2015年度より作成と実施を勧めてきた「データヘルス計画」。この計画の元集められた、レセプトや特定検診などの膨大なデータは、2020年度より本格的に運用されることがすでに公表されています。
そこで今回は、データヘルスの本格運用に向けた、2018年現在の官民双方の動向を解説します。
2017年4月に総理大臣官邸で行われた第7回未来投資会議。新たな医療・介護・予防システムの構築について検討が行われたこの会議において、安倍首相より遠隔診療とともに提示されたのがデータヘルスです。
技術が飛躍的に進歩し、今は膨大なデータの分析も可能となりました。そのため、データヘルス計画に基づいて得た健康や医療、介護に関するデータを元に、より低コストで健康や医療に対するパフォーマンスが高い保険事業を分析し、情報を提供することも可能となっています。
データヘルスによって得られた情報を元に、企業の経営者に対しても健康寿命を延ばすために積極的な関与を求めていく方針が打ち出されました。この方針に伴い、同年7月に厚生労働省は「国民の健康確保のためのビッグデータ活用推進に関するデータヘルス改革推進計画・工程表」を公表しています。
2020年には「保険医療データプラットフォーム」が本格稼働予定されることに伴い、今後分析されたレセプトデータを個人や企業へ還元し、健康や医療・介護分野へ生かしていく方針を打ち出しました。
政府や国の方針に合わせ、厚生労働省は医療保険者等と予防・健康づくりのサービスを提供する事業者とのマッチングの機会を提供するための、「データヘルス・見本市」を主催しており、2018年1月現在で3回目の開催となりました。
2018年1月に開かれた平成29年度のデータヘルス・見本市東京会場では、31組の出展がありデータの分析以外にも、生活習慣病の予防や職場環境の整備、わかりやすい情報の提供などをテーマに展示や説明が行われました。
実際に会場では生活習慣病の重症化を防ぐ取り組みやレセプトの詳細な分析ができるシステムの開発など、データヘルスを活用した様々な取り組みが紹介されました。 また、それぞれの企業の強みを生かした上で、事業展開を図っていくために他の企業のブースを積極的に回る企業も多くみられていました。
技術的に膨大なデータの分析ができるようになったとはいえ、なぜ、首相をはじめ政府や国は、データヘルスを活用するために動いているのでしょうか。それは、増加の一途をたどっている医療費を軽減するためです。
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、医療費のさらなる増加が懸念されている「医療費の2025年問題」はもう目前に迫っています。そこでデータヘルスを本格運用し、健康寿命を伸ばす効果があると判断された事業について支援することで、医療費を削減することを狙いとしています。この流れに合わせ、新たな事業開拓を進める企業も出てきています。
管理栄養士や栄養士のネットワークを持ち、健康アドバイスアプリを提供しているリンクアンドコミュニケーションは、スポーツクラブ事業を中心に自治体の健康づくり事業も展開しているルネサンスと2018年1月31日に資本・業務提携に至っています。データヘルスが本格活用されることを新たなビジネスチャンスととらえた企業の動きはすでに活発化しており、今後もこの流れはさらに加速すると予測されます。
世界でも例を見ない、超高齢社会となりつつある日本。超高齢社会に備えた医療費削減に対しては、官だけの対策では限界があり、民側の協力は必須といえます。データヘルスの活用は、まさに官民がともに医療費削減という大きな課題に立ち向かえる武器となりえるものであり、今後のさらなる動向が注目されています。
参考リンク:データヘルス・ポータルサイト(厚生労働省「予防・健康づくりインセンティブ推進事業」 の一環として国立大学法人東京大学が運営)