医療にもテクノロジーの波が押し寄せ、医師の仕事の8割はAIやロボットに代替可能ともいわれます。近い将来、失業する医師が大量に出てしまうのでしょうか?それとも、人間の医師にしかできない働き方があるのでしょうか?
医師の仕事を分類すると、大きく分けて「診察」「診断」「治療」「研究」の4つになります。それぞれについて、AIに代替されるかどうかを考えてみましょう。
まず「診察」に関しては、患者の主訴にじっくりと耳を傾け、患者の反応に対して臨機応変に質問を重ねたり、患者の表情を読み取ったりということは人間の医師の方が優れています。さらに、視診や触診もAIには難しいと考えられます。
「診断」については、画像や検査結果をすばやく正確に比較分析する作業は、AIの方が優れています。加えて、AIは疲労によるエラーや見落としもありません。
「治療」については、患者本人や家族の意向や希望を踏まえて判断し、納得のいく説明をし、相互の信頼関係を築く必要があるため、AIが機械的に決定することは馴染まないと思われます。
「研究」については、大量のデータを短時間に分析することは、AIの得意分野ですが、データの解釈や創造的な発想は人間の力が必要とされます。
このように比較してみると、一概に全ての部分でAIが優れているわけではなく、AIの長所を生かしつつ最終的には人間の医師が診察や診断、治療や研究に主体的に関わっていく必要があることが分かります。
厚生労働省は2017年4月6日に「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書」を公表しました。それによれば、「技術革新は基本的に医師の作業を効率化させるものではあるが、全体として必要な医師数を必ず減らすとまで言い切ることはできない」としています。
つまり医療に関して、AIに代替される部分はあるものの、医師が関与する部分が必ず残るということです。たとえば、AIに学習させる医療情報の評価や選別には、高度な専門性を持つ医師の役割が欠かせません。医療情報やデータの活用、保険者機能の強化やビジネスへの転用、さらにAIの向上にも人間の医師の関与が必要です。
次に、野村総研が2015年に601種の職業を対象に、コンピューターによって代替確率を試算したリサーチにも目を向けてみましょう。それによれば、外科医や産婦人科医、歯科医や小児科医、精神科医や内科医が「人工知能やロボット等による代替可能性が低い100種の職業」としてリストアップされています。
つまり創造性や協調性が必要な仕事、あるいは定型化や一般化ができない業務については、引き続き人の関与が必要との結果が出ているのです。
データや画像の照合・分析、そしてその中から可能性の高い疾患や治療法の選択肢を選び出すことについては、AIがスピードや精度の面で優れていることが分かります。しかし、共感や共鳴、相互理解や温もりといった人的交流が必要な場面では、人による対応が欠かせません。
AIやロボットへの業務の代替を過剰に心配するより、まずは「人の健康を守り、人を幸せにすること」という医療の原点に立ち返り、患者のQOLとQODの向上のため最善を尽くすことが大切です。
ケアを決定する際には、AIを活用した診断結果を丁寧に説明しつつ、患者の意思を尊重し質の高いコミュニケーションによって信頼関係を築き、理解を得ると同時に最善策を共に模索していくことになるでしょう。
つまり、エビデンスに基づく分析の部分はAIの助けを借りたとしても、それを患者のケアに応用するのは、人間の医師に委ねられるということです。AIやロボットの活用は確実に広がっていきますが、人を思い温もりをともなった医療は人間にしかできないと考えられます。
医療現場には確実にAIやロボットが導入され、医師や医療関係者の仕事を代替するようになります。診断の制度は向上しミスも減り、治療法の選択肢も漏れがなくなります。
しかし、患者とのコミュニケーションや信頼関係の確立、患者の意思を尊重したケアには人の力が必要です。AIやロボットを上手に活用しつつ、温もりのある治療が実践できる人間力を持つことが、仕事を奪われない働き方といえるでしょう。