医師は患者の命を救い、社会に貢献するやりがいのある仕事です。しかし、実際には長時間の残業に宿直などで、自分や家族との時間もなかなかとれません。自分のやりたいこととのズレ感じ、医師以外への転職を考える人もいます。努力して獲得した医師という職業と異なる道を選択するのは、多くの人にとって勇気が要る決断だと思われますが、意を決し成功する人も中にはいます。
全国医師ユニオンが2017年に行ったアンケート調査では、実に6割の医師が1度は医師を辞めたいと思ったことがあると答えています。
理由はその調査には含まれていませんが、他の調査を総合すると、
・業務負担が重い
・自分や家族との時間がとれない
・医局人事に振り回されるのに疲れた
・緊急手術やオンコールの連続で体がついていかない
といったことが背景にあると考えられます。
多くの人は決断することなくそのまま勤務を続けるか、よりよい環境を求めて他の医療機関に移っていく、あるいは開業医の道を選んでいます。しかし職場を変えても、医師を続ける限りは長時間労働や重い業務負担から逃れることはできません。
2016年の医師数は31万9千人で、2006年の27万8千人から4万人超増えてはいますが、不足解消にはまだまだ距離があります。国が進める働き方改革も、医師の時間外労働への上限規制は5年間猶予とされ、なかなか前に進みません。
こうした事情もあり、医師以外の働き方を選ぶ人が少しずつ増えているのです。
医師の資格を生かしつつ、全く異なる働き方いえば、まず製薬企業でのMDやMSLが考えられます。
MDとはメディカルドクターのことで薬の開発や安全評価、市販後の調査など行います。MSLとはメディカル・サイエンス・リエゾンのことで、薬の効用についてエビデンスをもとに、科学的見地から中立的な情報を顧客に提供します。
製薬メーカーで医師の求人が増えているのは、創薬がスペシャリティ領域に移り専門領域のソートリーダーやキー・オピニオン・リーダーと情報交換を行ったり、患者のアンメットニーズの収集・解釈を担ったりするなど、高度な専門性が求められる場面が増えているからです。
続いて、コンサルタントも医師が活躍できる職業です。主にヘルスケアや医療・介護、保険、製薬関連の企業を対象にコンサルティングを行います。コンサルティング会社は主とする業務によって戦略系、業務系、経営系、シンクタンクなどのタイプに分かれます。
戦略系は大手企業を中心に経営戦略やM&A、海外市場への進出などの戦略を策定しアドバイスをします。 | |
業務系は、グローバル企業などに対して、法務、税務、会計、IT関連の業務を提供しつつ、業務改善やM&A、リスク回避などについて助言したり、関与したりします。 | |
経営系は、病院や医療機関の経営改善や合理化、効率化などについてアドバイスをします。 | |
シンクタンクは、企業の経営全般に対するアドバイスのほか、経済動向や医療制度、法律などを研究し、報告書の作成や政策提言を行います。 |
メリットは、まず労働時間が短くなることです。もちろん残業ゼロというわけにはいきませんが、当直やオンコールがない分、勤務時間は少なくてすみます。
さらに、原則土日祝日が休みのうえ、有給休暇が取りやすいので、家庭サービスや旅行・レジャーを楽しむ時間を持てます。待遇は経験により異なりますが、年収1000万円から2000万円は期待でき、退職金が多いことも大きなメリットです。
コンサルタントを経験した後に、起業することも可能です。もちろん起業の場合、成功するまでに時間がかるうえ、報酬も不安定、失敗のリスクもあります。しかし、自分のやりたいことを仕事にできるうえ、成功したときの達成感は大きくなります。
デメリットは、ポジションによっては収入が減ることがあることです。経験を積み昇進を早めるなどの努力が必要です。
さらに、企業では先生と呼ばれることがないため、ステイタスを重んじる人はカルチャーショックを受けるかもしれません。臨床現場に戻りにくくなることなども考えられます。一定期間のブランクが生じてしまうため、臨床に戻る際に不利になることがあります。
必要な知識やスキルは、資料作成のためエクセルやパワーポイントなどのソフト使用スキル、社内外との交流や業務調整のためのコミュニケーション能力などです。加えて、ビジネス感覚をはじめリーダーシップや交渉力など対人スキル、管理職を目指すのならマネジメントスキルも求められます。グローバルに活躍しようと思えば、英語力は欠かせません。
医師の6割が離職を考えるほど業務負担は重い一方、医師不足の解消や働き方改革の取り組みはなかなか光明が見えません。 医師以外の求人も増え、新しい道に進むことも現実的な選択肢です。医師以外への転職をめざす場合は、メリット・デメリットを十分理解し、それぞれの職務に求められる知識やスキルを習得するなど、戦略的に進めましょう。