コンサルタントは、医師からずいぶん飛躍した転職しづらい職業のように感じられるかもしれません。しかし実は、コンサルタントに転職する医師が少しずつ増えているのです。
その背景にはどのような事情や理由があるのでしょうか?
試しに海外の求人情報専門の検索エンジンIndeedで、Physician Consultantと入力し、ニューヨークの求人を検索してみます。
すると、マッキンゼー・アンド・カンパニーや会計や税務などのコンサルティングを手掛けるpwcが、コンサルタントとして医師を探しているのが目に止まります。
日本でも同様の傾向が見られ、医療系ビジネスリーダー専門の転職サイトも登場しています。そうしたサイトを覗くとコンサルタント求人を目にすることができ、医師からコンサルタントへの転職は、以前に比べるとずっと身近になっていることがわかります。
ではなぜコンサルタントして医師が必要とされているのでしょうか?
それは、近年、健康志向の高まりや高齢化を受けて、ヘルスケア業界が躍進を続けているからです。
さらに、製薬メーカーがグローバル化・巨大化し、製薬ベンチャーのM&Aが盛んなことも理由に挙げられます。加えて先進国では、高齢化による医療・介護費の高騰で、社会福祉制度の見直しを急いでいるという事情もあります。
つまり幅広い方面で、医師の経験を持ったコンサルタントのニーズが高まっているのです。
ウェブサイトから、医師からコンサルタントに転職した人の動機を見ていくと、向いている人の傾向が分かります。
ある医師は、もともと人道支援に興味を持っていました。臨床現場で一人ひとりの患者に向き合ううちに、プロジェクトとして人道支援に取り組む方が自分に向いていることに気がつき、マッキンゼーに転職しました。
今では、複数の病院や人道支援プロジェクトの運営・アドバイスに当たっています。
ある循環器科の医師は、毎日心臓病の患者の対応に追われ、同じことの繰り返しにフラストレーションがたまっていました。そんな毎日に嫌気がさし、公衆衛生の学位を取ってコンサルタントに転職しました。
現在は、病院や行政などに医療システム構築のアドバイスを行っています。
ボストン・コンサルティング・グループのコンサルタント片岡秀樹氏は、以前は外科医として病院に勤務していました。
患者を救うことに誇りをもっていましたが、社会にインパクトを与える仕事をしたいと考えて、コンサルタントへの転職を選んだそうです。
こうしてみると、コンサルタントへの転職に向いている人は、患者を個別に治療するよりも国や地域住民全体の健康維持や疾患予防に興味がある人。
また、医療に関する仕組みや制度を考えるのが好きな人、医学と経営・ビジネスの橋渡しに興味がある人ということができるでしょう。
医師からコンサルタントに転職した後、起業家としてビジネスを立ち上げる人もいます。
たとえば、遠隔医療支援のプラットフォームを展開する株式会社メドレー代表取締役豊田剛一郎氏、スマホ診療プラットフォームアプリを提供する株式会社情報医療のCEOの原聖吾氏などです。
両氏はともに医師出身で、マッキンゼーでコンサルタントの経験を持っています。
VR技術を医療に応用する株式会社Mediaccelなどを創業した杉本真樹氏は、コンサルタントに転職した経験はありませんが、医師でありながら起業家の顔を持っています。
内閣府が策定した2013年の日本再興戦略を見ると、ヘルスケア産業の市場規模は2013年の16兆円から、2020年には26兆円、2030年には37兆円になると拡大が予測されています。
実際、矢野経済研究所の調べでは、バイオ・ヘルスケアベンチャーの企業数は、2004年は498社でしたが、2017年には686社に増え、市場の拡大を裏付けています。
今後も医師がコンサルタントとして活躍する場面、あるいは医療ベンチャーの創業メンバーやアドバイザーとして参画する機会は、確実に増えていくと考えられます。
医療費の抑制、健康寿命の延伸、医工連携、最先端の医療技術開発や創薬など、ヘルスケア産業は今後も拡大が予測され、医学の専門知識を持ったコンサルタントのニーズはますます高まっていきます。 自分が向いている、あるいは熱意があると感じたら、医師からコンサルタントへの転職にチャレンジしてみるのも一つの選択肢と言えるでしょう。