医療機器の進化により、様々な装置を用いた画像から診断や治療を決定していくことができるようになりました。しかしそこには高いスキルと豊富な経験が必要不可欠です。
医師不足や長時間労働など様々な改善が必要な医療現場において、これからの医療診断の分野の発展において医療用AIの存在が欠かせないとされています。
現時点では医療現場においてAIの使用について特に規制はなく、個々の現場で様ざまな形でAIを取り入れています。活躍の事例をいくつか挙げてみます。
近年、ゲノム科学研究への大きな関心の拡がりが見られ、その研究領域は生物科学や工学、情報科学等の多方面に渡る知識を豊富に持った研究者により日々革新をみせています。
ゲノム科学の研究成果は日本が抱えているがんを含む生活習慣病や加速する高齢化等の保健医療問題、世界共通の人口問題や食糧・環境等の問題など、様々な課題の解決に役立つであろうと期待も高まっています。
当然、研究者の人材確保も国を挙げて取り組んでいますが、ゲノム規模の知識量や複雑な疾患の解析を正確に行うには人間には限界があるのも事実です。
そのような背景の中、オレゴンヘルス&サイエンス大学のがん研究所とマイクロソフトがタッグを組んで取り組むハノーバープロジェクトが誕生しました。 これは、精密医学のためのAIによる決定支援で、正確な解読と診断・治療決定をAIが補完的な立場で担うものです。
具体的には、数百万の生物医学論文を自動的に読み込んでゲノムスケールの知識ベースを構築し、それに基づきがん精密治療のための決定をするAI技術の開発が進められています。また、慢性的な疾患を抱える患者が増えないように、個々に予防を促すような技術の開発もされています。
糖尿病に伴い起こる合併症の一つである、糖尿病網膜症は早期発見ができれば治療が可能ですが、発見が遅くなるとその進行を止めることができず最悪の場合失明に至る怖い病気です。
通常、医師が患者の網膜写真を見て診断を下すのですが、正確に診断をするには専門的な知識と豊富な経験が必要であり、現在診断技術の高い医師は世界的にみても不足しているといいます。
しかしながら、糖尿病の3大合併症である糖尿網膜症は成人の失明原因の第一位ともいわれており、米国においては、糖尿病患者のうち約28.5%、インドでは18%もの患者がこの糖尿網膜症を含む糖尿病性眼疾患を発症しています。 迅速かつ的確な早期発見が非常に大切であり誤診や見逃しは取り返しのつかない事態になりうるのです。
Googleは、網膜の写真から糖尿病網膜症を発見するための、ディープラーニングのアルゴリズムを開発しました。これらを使い研究を進めていくと、糖尿病網膜症の兆候を眼科医が診察を行い対応する場合と同じ程度の精度で発見することができたのです。実用化はまだですが、将来的にとても期待されている医療AIのひとつです。
動いている心筋や血流の動きを撮影できる優れた検査手法である、心臓MRI。しかしその診断は複雑であり専門家でも時間を要するといいます。また、MRIの強い磁場にさらされることによる人体への悪影響は確認されていませんが、ペースメーカーを装着している方の検査ができないなど対象者は制限されます。
冠動脈のCT検査や心筋梗塞のMRI検査は、とても感度が高く信頼性の高いことがわかっており、カテーテル検査に代わり冠動脈の病気の診断から経過観察まで広く使用されています。
このようにCTやMRIをはじめ超音波検査や各医学検査など心臓の画像診断法には、優れた方法が数多くあります。そこに参入してきたのが米国Arterys社のAIです。
これは、MRIで撮影した画像をより迅速かつ正確に診断することを目的に開発されているものです。同社のサーバにMRI画像が転送されるたびデータが保管されていくため、クラウド上には膨大な心臓MRIのデータを蓄積する事ができ、より精密性のある診断が可能になるという仕組みです。
また、静止した画像ではなく3Dの動画で心臓の血流や収縮の動きを細かに確認することができるようにするなど、これまでの画像診断より精度向上を目指しています。さらに、4Dという領域にも足を踏み入れ、血管異常の早期発見に有効な手段として期待されています。
全米科学アカデミー・オブ・サイエンス・エンジニアリング・アンド・メディスンの医学研究所は「診断上の誤りは患者死亡の約10%に相当する」と報告しており、早期での正しい診断の大切さが強調されています。
AIも進化の途上ではありますが、世界中で多くの研究者や企業がAIを活用して医療診断の改善に取り組み続けており、今後の活躍と発展に期待が集まります。