私たちの身近なものになりつつある、そういった技術の一つに「VR」があります。VR技術はいわば私たちに仮想的でありながらも、リアルな体験を与えてくれる技術です。その稀有で特殊な性質は、いわば視覚や脳を通じてダイレクトに新しい体験を生みだします。
民間においてもVR技術の浸透が始まりつつありますが、実は既に医療の現場においても実用化が始まっている のです。まだ、国内における実用例は少ないかもしれませんが、そこで今回は一先ず既に実用化に至っている技術の一部を少しご紹介させていただければと思います。
スタンフォード大学が開発したVRコンテンツの1つ、「The Stanford Virtual Hearts」をご存じでしょうか。このコンテンツは教育用のもので、心臓に関しての様々な事柄を学ぶためのものです。VRでは仮想空間における体験が自由に可能なことから、心臓をリアルな3D映像で学ぶことができ、構造やその働きを確認する事が可能です。
このコンテンツでは、コントローラ操作によって、角度を変えて確認をする、それぞれのパーツに分けて確認をする、内部から見るなど、実にユニークなスタイルで"分かりやすく"学習を行うことが可能です。このコンテンツは既にスタンフォード大学で実際に活用されており、学生が勉強の為に使用しているのです。
国内では同様のレベルにおけるVRコンテンツの提供はまだなされていないと思われますが、今後日本国内においても同様のものは出てくるでしょう。VRならではの学習方法によって、私たちの学習レベルがこれまで以上に飛躍するかもしれませんね。
医療に応用されるVR技術としては、精神疾患への治療や、幻肢痛等への対策としても既に使用されています。これについて、少しご紹介してきましょう。
1.精神疾患への応用について
手術等の治療においてもVR技術の活用はスタートしているところですが、実は精神疾患に関しての高い効果も期待され、実用化に至っています。どうして精神疾患への活用がされたのか、その理由は至ってシンプルなもので、多くの精神疾患はそれぞれの体験をベースに生じていると考えられているためです。
VRでは、仮想空間における体験ではあるものの"脳が体験した"と感じることのできる技術となっています。 そのため、新たな体験をすることによってPTSDの治療などを行うことができるのです。既に、戦場に赴いたことでPTSDを患った方に対してVR治療が高い効果を上げています。
2.痛みの緩和に関する応用
VR技術は、幻肢痛の緩和にも用いられています。そもそも"感覚に問題が生じている痛み"であるなら、その感覚に対してダイレクトに作用するVR技術が一定の効果をもたらすことは、確かに期待できますよね。これに関しては、まだ研究段階となっているテーマも多いのですが、幻肢痛、全身やけどの痛みに関しては既に使用がスタートしている所です。
VRはリアルな3D体験ができることから、ナビゲーション。シュミレーションへの応用も得意とする所です。そこで白羽の矢が立ったのが手術に関するシュミレーションやナビゲーションです。現在、患者の3D-CT映像を元に、VRで術前のシュミレーションを行う手法についての研究が進んでいます。リアルで精度の高い準備を可能とすることによって、術者の負担も軽減する事が可能とみられているのです。
また、医学生の教育にも応用が期待されています。前述のVRコンテンツ同様、実際の映像を元に手術のシュミレーションを行う事が可能になるわけですから、仮想空間における"リアルな体験"を通じて、高い経験値を積むことが可能となります。
「リアルな体験を提供することが可能」なVR技術は、実に様々な点で応用が効くものです。特に教育における応用、精神的な体験への新たなアプローチの効果には目を見張るものがあります。海外での活用事例が多いようですが、国内における実用化も、今後は急ピッチで進められていくでしょう。