社会的に高齢化が進む日本では、様々な機能に軋轢が生じ、問題が生まれているように思います。医療業界における1つの問題としては、ベテラン医師の高齢化による、技術を持った医師の不足、あるいは患者数の増加などが挙げられます。また、認知症患者等が今後も増加を続ける見込みであることから、近年ではもっぱら在宅医療に力を入れる動きが強くなっていることは、既に皆さまもご存じの通りではないかと思います。
そこで、今回はこれからを生きる医師にとって重要な在宅医療と言う分野について、何故需要が高まっているのかという点を、患者視点より少し考えてみたいと思います。
在宅医療を希望する患者が増加する背景には、幾つかの要素がみられます。1つは、該当患者の属する地域に対して診療機関が少なく、近隣の診療所などへ自身の力で向かう事ができないケース。次いで多いと考えられますのは、認知症などを中心とする高齢者の緩和ケア・在宅ケアなどを希望されるケースでしょう。
いずれの場合も、基本的な部分としては「病院を訪問し、診察や治療等を受けることが難しい」というケースが多く、これまでも地域のかかりつけ医が往診を行ってきたであろう範囲に属するものと考えることができます。ただこれまでと少し事情が違うのが、このような地域における医師の不足、つまり医師の偏在によって、同様の医療を受けることが難しい方も増加しているという事実です。
医師の偏在化、過疎地域における医療資源の不足は長年叫ばれてきた課題の1つと言えますが、実態としてこの問題は未だ解消されていません。厚生労働省及び各自治体が主導となる地域包括ケアシステムもまだ十分に機能しているとは言えず、厳しい状況が続いています。
このような状況が続いている中、在宅医療を希望する患者数は高齢化と共に増加を続けている所ですが、このような患者の方が望むもっとも大きな理由として挙げられるものは、やはり自宅ならではなの安心感ではないかと言われています。同じように診察、治療を受けるにしても、その現場が病院なのか、あるいは自宅なのか、という環境の違いは精神的な部分への影響が異なります。
自宅であれば、少し調子が悪かったとしても、病院にいる時ほど不安を感じないと言われる方もいらっしゃるのです。在宅医療を行う医師に求められるものは、医師の技術や経験だけではなく、"安心感を与えられる存在としての機能"ではないかとも思います。高齢になり、1人で過ごしている方の元を定期的に訪問する医師は、患者にとってある種家族のような関係性の近さもある、ということは覚えておきたい所です。
前述のように、医師の訪問を喜ぶ患者は決して少なくありません。自身の簡単な近況報告を交えながら、他者と話す時間は患者の気持ちのケアに大きく貢献できることであります。ただ体調の良し悪しをみるだけではなく、患者がどのような気持ちでいるか、どのようにすれば不安等を払拭し、元気でいてもらえるのか等、メンタルケアについても考える必要性があるでしょう。
老人の孤独死という言葉を一時よく聞く機会がありましたが、そのような状況は今も決して変わってはいません。特定の施設に入ることのできる高齢者であれば、誰かとコミュニケーションを取りながら日常を過ごすことができますが、そうではない状況に置かれた患者も多く、そのような方々が在宅医療にどのような期待をしているのかは想像に容易と言えます。
在宅医療を目指す医師が増えている、というニュースが時々流れますが、実態としてその数が十分であるという話を聞くことはなかなかありません。しかし、そのような厳しい状況下においても、このような地域医療への貢献を考える医師も決して少なくはないのです。そのような方に、少しでも参考になれば幸いです。
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ZY 検査技師として医療機関に勤務。代替医療、食事療法を中心に学んだ経験を活かし、健康をテーマにした内容を広めるべく様々な活動を行っています。食、医療に関しての関心が強く、ライターとして活躍させて頂いております。 |