日本国内における死因の上位に君臨を続けるがん。最近ではオプシーボ開発に一役買った本所佑氏がノーベル医学・生理学賞を受賞したというニュースもまだ新しい所です。免疫チェックポイント阻害薬である通称オプシーボはがんに対する万能薬ではないことは確かですが、それでも現代のがん医療に大きな一石を投じたことは間違いないと言えます。
しかし、がんに対しての様々な研究は進むものの、がんがこれほどまでに発生してしまう原因についてはあまり触れられることがありません。一度がんになってしまえば何らかの治療や対策を施さなければいけませんが、よく考えてみれば"原因"は気になりますよね。
もちろん、十把一絡げに○○が原因ですと明快に答えることはできないでしょうが、どのようなものが関与するのかが明快になれば、治療に関する新たな進歩も期待できるのではないかと思うのです。そこで、今回はある裁判で認められた一つの事例を元に、農薬とがんの因果関係についてまとめてみたいと思います。
一般的な話、つまりイメージ等で話をすれば"農薬とがんとの間には、直接的な因果関係は科学的に証明されておらず、そのエビデンスは存在しない"というのが通説です。確かに、そのような事実は基本的に公開されておらず、農薬は全てが有害であり、がんの原因になりえると言ってしまえば少々暴力的な表現ともとられてしまう所です。
ただ、この通説が通じるのは国内の話であり、海外では少々事情が変わってきているという事実はご存じでしょうか。がんの原因に農薬が確かに影響を与えている可能性がある、という話が実はある裁判でも認められているのです。
農薬と言われるものには、殺菌剤や除草剤など、かなりの種類が販売されているのをご存じでしょうか。その数は非常に多く、"有機JAS認定"をとったもの作物ですら、100を超える薬剤が使用されている可能性があるのです。
2018年8月、アメリカである裁判に関する判決が下りました。裁判の内容は要約すれば「農業に従事していた男性が、使用していた除草剤の影響でがんを発症したとして、除草剤を製造販売したメーカーを訴えたもの」 です。
これまでも、多数の人々が同様、あるいは近い内容でメーカーを相手どって訴訟を起こしていますが、裁判が終わっていないものが大半であり、今回のような主張が認められたケースというのは極めて珍しいと言えます。
裁判では除草剤のラウンドアップ及び業務用製品のレンジャープロが非ホジキンリンパ腫の実質的な原因だったと結論付けています。2015年、WHOの外部組織であるIARC(国際がん研究機関)がラウンドアップの主成分であるグリホサートに対し"発がん性が疑われる"と指定した事から、今回の裁判は起こされたのですが、今回の裁判結果により「農薬中に含まれる成分ががんの発生に関与する」ことが明確化された形です。
フランスのある研究で、7万人を対象に5年間追跡したものがあります。その内容は、オーガニックフードを食べているかどうかが、がんのリスクにどのような影響を及ぼしているのかというものでしたが、結果から言えばがんとオーガニックフードとの間に直接的な関係は示されなかったものの、がんの罹患率が25%低下することが報告されています。
過去には2014年にもイギリスで同様の研究成果が報告されているが、この両者の研究において共通していたのが「オーガニックフードを食べる人々の間ではリンパ腫の発生率が極めて低い」ということです。前述の裁判の件でも"リンパ腫"だったことを考えると、農薬とリンパ腫との間には強い因果関係があることは明白と言えるでしょう。
農薬が人を不健康にするという事実は大きな話題であり、今や"常識"となりつつあります。もちろん、科学的な根拠がそこに必ずしも付随しているわけではありませんから、悪影響があると明快に答えることは難しいかもしれません。しかし、それでも"がんにかかるリスクへの関与が疑われる"ことは様々な研究から明らかと言えます。もしかしたら、今後は医師がオーガニックフードを処方するような時代も来るのかもしれません。
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ZY 検査技師として医療機関に勤務。代替医療、食事療法を中心に学んだ経験を活かし、健康をテーマにした内容を広めるべく様々な活動を行っています。食、医療に関しての関心が強く、ライターとして活躍させて頂いております。 |